Cancer Review on WEB

2009/1/15

インタビュー

麻酔科医辞職問題で反省 独自の人材育成に注力したい

国立がんセンター中央病院長 土屋了介氏


麻酔科医10人のうち5人が2008年3月末で退職。以来、手術件数の激減に見舞われた国立がんセンター中央病院。10月になって空席だった麻酔科部長も決まり、事態は好転し始めた。今回の騒動の原因はどこにあったのか。渦中の人となった院長の土屋了介氏に聞いた。(聞き手:小崎丈太郎=本誌編集長)
※このインタビューは10~11月にかけて収録したものです



プロフィール
土屋 了介(つちや・りょうすけ)氏 1970年慶応義塾大学医学部卒。慶応病院外科、国立がんセンター病院外科を経て、2006年より現職。「医療における安心・希望確保のための専門医・家庭医(医師後期臨床研修制度)のあり方に関する研究」班会議班長 (写真:清水真帆呂)

――国立がんセンター中央病院の麻酔科医の大量辞職が話題になりましたが、その後の状況はどうですか?

土屋  会う人、会う人が皆さん心配してくれるので、もう挨拶代わりになっているのですが、事態は好転しています。辞めた部長の後任として横浜市立大学麻酔科准教授の宮下徹也先生に麻酔科部長として10月1日に赴任してもらいました。

 事態が公けになると、東京大学麻酔科の山田芳嗣先生(生体管理医学)が「ナショナルセンターを日本麻酔科学会が見殺しにしてはいけない」と各方面に働きかけてくれた。私も、日本麻酔科学会の理事長の並木昭義先生に文書で窮状を説明し、学会の総会が開かれた際には、実際にお会いして話をさせていただきました。山田先生は横浜市大の麻酔科から東大に移られたのですが、一連の動きの結果、横浜市大教授の後藤隆久先生(生体制御・麻酔科学)に協力していただけることになった。年度の途中の人事ですから、普通はなかなかうまくいかないのですが、事態は急を要するということで、後藤先生が医局会に諮ってくれました。また、宮下先生とは赴任の前に面談させてもらいました。山田先生と後藤先生が推薦してくれた人物ですので、問題ないとは思ってはいましたが。

 1999年に横浜市大病院で患者取り違え事故が起こった後に、山田先生が着任されて手術システムの建て直しを図った。そのときに現場の中心になって働いてくれたのが宮下先生であるということでした。山田先生はそのときの彼の活躍ぶりから、今回の事態の収拾にも宮下先生が一番の適任者であると推してくださったのです。

――有事に強い先生なのですね。

土屋 ええ、着任したその日に現場を見て担当者の意見を聞いたり、臨床工学技士に指示して麻酔機器の更新時期の一覧表を作成したりと早速動いてくれました。横浜市大や東大で週に1~2日、外に出ることができる医師がいるので、そういう方々に来てもらえるようにお願いするということでした。宮下先生のレベルの指導的な麻酔科医をもう1人、それぞれの下に医師を2人ずつ付けて、1チーム3人のチームを2チーム補強する。すると、2009年の3月までには、08年並みの状況に戻ると思います。

 宮下先生の指揮官ぶりには私も大変勉強になりました。山田先生もご自身の仕事が終わってから、当院に来訪されて、手術現場などを見ていただいたり、頻繁に連絡してくれるなど、大変な配慮をいただいています。

5人の麻酔科医が辞めたのは給与が原因ではない

――手術を減らさざるを得ないという院内掲示で、麻酔科医の辞職が世間に公けになりました。

土屋 内々に処理しようとすれば、皆さんの不安を増幅することにしかなりません。組織を守ろうとするあまり、不祥事を隠して、かえって問題をこじらせてしまう例は、枚挙にいとまがありません。いつも完璧ということはあり得ませんし、お恥ずかしいことですが、それを内々にしまい込むことは税金を使って運営するシステムである以上、逆に恥ずかしいことであると思いましたから、公表はとにかく早く行いました。週刊誌の記者の方々にも直々に会ってお話をしました。当院は完全予約制ですので、見た目には混乱はないのですが、結果としては多くの皆さんに迷惑をおかけしたことは事実です。

――今回の事態を招いた原因は、麻酔科医の先生方の不満があったと報道されました。特に、給与などの待遇の不満とした報道もありましたが、本当のところはどうなのですか。

土屋 お辞めになった5人の先生方に私は直接、話を聞きました。待遇の面での問題を指摘された方もいましたが、いわゆる給与の不満は全く出ませんでした。これは国家公務員である以上、決まっているということで割り切っていました。ただ、緩和医療の勉強が思ったほどにできなかったという不満は持っていらした。

 その不満は皆さんに共通していて、それを改善へのアドバイスとして受け取りましたので、早急になんとか手を打つ必要があると感じていました。その対策の手始めに、緩和医療が専門の麻酔科医である的場元弘先生を手術・緩和医療部の緩和医療科医長として院内辞令で任命しました。

 以前から緩和の重要性を説いておきながら、院内の組織に「緩和」という言葉を冠した組織がなかった。これは大変おかしなことだったと反省しています。

――最先端の緩和医療を学びたかったけれど、実際は手術の麻酔ばかりやらされたという不満を辞めた先生方は抱かれていたということですね。

土屋 そういう側面があったということです。開院当初は手術件数も年間1000例から2000例程度で、麻酔科の先生も5~6人でまわすことができました。でも、2000年を過ぎた頃から手術が急増して、間に合わなくなってきたわけです。増員、増員でやってきたのですが、寄せ集めの部隊になってしまった。緩和医療をやりたいという麻酔科医も来れば、手術麻酔をやってもらうという事態になった。よくない言い方をすると緩和でつって麻酔をかけさせていたということです。

 国立がんセンターは麻酔科については、開院して46年間あまり、人材を育てるということがうまくいっていなかったということができます。人材を育てないで、入ってくる先生を次から次へと現場に投入していくから、やり方になじめない方々もいっぱいいる。それが皆さんが愉快に仕事をする場でなくなった理由の1つであろうと思いますね。

(次ページに続く)
(日経メディカルCancer Review)
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