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ミニ・インタビュー
中皮腫の対策モデルを確立して“ナノ粒子問題”にも臨むべき
順天堂大学医学部病理・腫瘍学教授 樋野興夫氏

2008/04/30
日経メディカルCancer Review

談笑しながら来院した患者が半年後には死亡している

――中皮腫という病気は潜伏期が35年とは長いですね。

樋野 肝炎ウイルスの感染と同様にアスベストの微小繊維の暴露が、発がん過程を開始させるトリガーになるのです。刺激された中皮細胞に持続的な炎症が起こり、細胞が増殖し、その結果遺伝子変異が蓄積し、がんになります。

ただし、1995年の阪神淡路大震災で倒壊した建築物の解体作業に携わった労働者から中皮腫の発症者が出ました。その場合、潜伏期は10年程度となりますから、35年とは固定した数字ではなく、暴露したアスベスト繊維の量が多ければ、潜伏期は短くなることもあり得ると考えるべきです。

全般的に病気はゆっくりと進行するのですが、発症すると急速に進みます。談笑しながら元気に歩いて来院した患者が半年後には亡くなっているのがこの病気なのです。現在の標準的な確定診断法であるCT検査や生検で捕捉できる状態になってからでは治癒は望めません。しかし、症状が現れるまでは、非常にゆっくりとしているということは、医療による介入機会がたくさんあるという見方もできます。

――症状がない段階で見つかれば治癒の望みがあるのですか。

樋野 血液検査で疑わしい患者をピックアップして、Erc遺伝子産物特異的プローブを使ったPET検査などを援用して、小さな中皮腫の病巣を見つけて、摘み取っていく。そうして延命しながら、天寿を迎えればいいのです。また、Erc遺伝子が中皮腫に多く発現していることが確認されれば、その遺伝子産物を抗原にした抗体医薬の開発も可能です。すでに、私たちは動物試験で抗体治療の有用性を示唆する結果を得ています。ヒト化抗体医薬は有望な治療手段です。


ナノ粒子は第2のアスベストか

――欧米では1970年代前半にアスベスト関連の労働者にがんが多発して大きな問題になり、世界保健機関(WHO)や国際労働機関(ILO)が動いてアスベストの発がん性を指摘、90年代までには使用を禁止した。日本はその後も輸入を続けていたわけです。潜伏期35年ということは……。

樋野 日本における中皮腫患者はこれから増えてくる、まだ発症ピークを迎えていないということです。建設労働者などの間でも集団訴訟の動きが広まっていますから、今後いま以上に大きな社会問題になることは避けられない。さらに、いずれアジア諸国でも大きな問題になります。韓国やタイでも関心を呼んでいます。この問題では日本アジアの先進国ですから、積極的にイニシアチブを取ってあたってほしい。

第2のアスベスト禍になる可能性があるものとして、産業利用が始まっているナノ粒子があります。既に欧米ではナノ粒子の安全性をめぐる議論が起こっています。ちょうどアスベストが問題になったときも、小さな議論からだったことを考えるとナノ粒子についても注意を払う必要があるでしょう。

大切なのはリスクを評価するシステムをいち早くつくること、さらにその結果を社会にアピールできる有効なリスクコミュニケーションを取ることです。アスベスト禍が提起した問題は、このリスクコミュニケーションの不在という問題でもありました。政府は、ナノ子についてもリスクを正確に評価する手法の確立に早急に乗り出すべきです。

「歴史に学ばなければ、歴史が教えにやって来る」。これがアスベスト禍の教訓です。

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