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ミニ・インタビュー
中皮腫の対策モデルを確立して“ナノ粒子問題”にも臨むべき
順天堂大学医学部病理・腫瘍学教授 樋野興夫氏

2008/04/30
日経メディカルCancer Review

樋野興夫氏

中皮腫は、アスベストの暴露から35年を経過して発症する潜伏の期の長いがんだ。2005年8月に「アスベスト・中皮腫外来」を開設した順天堂大学医学部教授の樋野興夫氏は、胸膜や腹膜の中皮に存在するErc遺伝子産物(糖たんぱく質)が血液マーカーになる可能性を検討している。検査薬が開発されれば、中皮腫患者の早期発見の有力な手段になる。アスベスト暴露による中皮腫問題への取り組みは、肺障害との関連が懸念され始めているナノ粒子利用のリスク評価や対策立案にも役に立つはずと樋野氏は語った。(聞き手:小崎丈太郎=日経メディカルCancer Review編集長)



――Erc遺伝子に注目された経緯を教えてください。

樋野 もともと中皮腫を研究していたわけではなく、遺伝性ラット腎発がんの過程で高発現してくる遺伝子としてErcに注目しました。この遺伝子は正常ラットの胸膜や腹膜の中皮でも発現しているのですが、腎がんになるとその翻訳物である糖たんぱく質が血液中に分泌されるので、遺伝性ラット腎がんの血液診断に使用できることがわかりました。同様に中皮腫になると血中に分泌されてくることから、中皮腫の腫瘍マーカーになるのではないかと考えました。前立腺がんのPSA(前立腺特異抗原)のように1次検査に使えるのではないかと考えたわけです。


“クボタ・ショック”で注目される

――最初から中皮腫の腫瘍マーカーを探索していたわけでなかったということですね。

樋野 中皮腫を研究しているつもりはありませんでした。しかし、腫瘍マーカーになりそうだという見解をまとめた数年後の2005年になってクボタの工場周辺の住民に中皮腫患者が多発していることが判明したいわゆる“クボタ・ショック”があり、にわかに注目を浴びるようになりました。

ヒトの検査に使用するためには、ヒトでErc遺伝子のホモローグ(相同遺伝子)を見つける必要がありますが、この遺伝子のラットとヒトの相同性は60%程度と低く、当初は検索しても見つからず苦労しました。その後、ヒト遺伝子Mesothelin/MPFのホモローグであることがわかり、その知見をもとに、ヒトの翻訳たんぱく質を検出するELISA(酵素結合免疫検査)法を免疫生物学研究所と共同で開発してきました。

振り返ってみると、この遺伝子は正常の中皮で発現しているわけですから、仮に中皮腫だけを研究していたら、腫瘍マーカーになる可能性に気がつかなかったかもしれません。


――検査薬としての有効性をどうみていますか。

樋野 2005年8月に順天堂医院にアスベスト・中皮腫外来を開設しましたが、疑わしい患者さんが多数、ほかの医療機関から紹介されてきます。中皮腫は病理学的にも診断が難しく、誤診も10~20%と多いので、正確に診断していく必要がありますが、これまで受診した患者さんは延べで2000人くらいです。そのなかの45人ほどで中皮腫と診断しました。

受診者の600人ほどで了解を得て、血液中のErc遺伝子産物の有無を検討しました。中皮腫は上皮型と肉腫型、それらの混合型があり、全体の60%を占める上皮型で精度、感度とも90%を超える成果が出ています。全体の20%を占める肉腫型は難しい。肉腫型を入れると全体の精度、感度は70%程度に下がります。

――検査薬の用途をどのように想定していますか。

樋野 手術や化学療法の効果を判定するモニタリングには使用できると思います。また簡便で安価に使用できるELISAとしたことで、広く従業員検診や住民検診の1次検査として利用できると思います。おそらく建設労働者など数100万人が対象になります。

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