今年の課題はTS-1+シスプラチンの“外来化”
―― 外来化学療法の現場では、抗体医薬のやり繰りが大きな課題というわけですね。
田村 基本的には外来であっても治療の最優先順位は、治療効果です。ただし、治療効果が同等であれば、より簡便なもの、例えば内服薬などが魅力ですが、明らかに注射薬の方が成績の良い場合は、注射薬を用いるのが妥当です。
各がん種の標準的治療法ができるだけ外来で行えるように整備をしていくことがこれからの課題です。特に今後大切になってくるのはシスプラチンの扱いです。
先ほどカルボプラチンが登場して外来化学療法が実現できたという話をしましたが、臓器によってはまだまだシスプラチンの方がカルボプラチンよりも治療成績が良いという場合も多くあります。決してシスプラチンが不要になったわけではありません。
そうしますと、シスプラチンを入院でなく外来で投与することが可能かどうか、これが重要な課題になってくるわけです。米国を中心とした海外では、入院費が高いこともあり、これが進んでいます。
例えば昨年、進行胃がんの初回標準的治療法は、「TS-1とシスプラチンとの併用」となりました。TS-1は内服薬で外来治療になじみやすいわけですけれども、シスプラチンを併用すると入院が必要になります。このTS-1とシスプラチンとの併用をいかに入院せずに行うか。実現できれば、進行胃がん患者さんのQOLの改善につながるはずです。現在、TS-1とシスプラチンの外来治療での安全性を評価するような臨床研究を計画中です。
急変する患者さんの容態にどう対応するか
―― 以前、化学療法を外来で行うことに難色を示した専門家に会ったことがあります。最も心配していたことが医療スタッフの目が届かないところで起こる容態の急変でした。
田村 「オンコロジー・エマージェンシー」の問題ですね。オンコロジー・エマージェンシーに適切な対策が取れるかどうかは外来化学療法を成功させるための非常に重要なポイントといっていいでしょうね。
まず、最初に考えなければいけないのは、患者さん自身ががんに伴う症状や副作用などを正確に理解して適切な対応を想起できるかどうかですね。がんによる容態の変化なのか、治療薬の有害事象なのかを把握する。
そのためには起こりそうなイベントを事前に知っていただくことで、患者さんの不安もかなりやわらぐはずです。患者さん自身が正確に対応する、これを「セルフケア」といいます。「セルフケア」の指導を適切に行うためには、医師だけではなく看護師や薬剤師も、患者さんにそうした事態をきちんと具体的に説明できるように内容を咀嚼しておくということです。
さらに緊急の場合の連絡先など、事前の取り決めをしっかり行っておく必要がありますね。患者さんの住所の近くの医療機関と連携して、患者さんが連絡を取れる体制をつくっておくことも有効です。
とりわけ国立がんセンターは遠方から通院する患者さんが多いので、緊急時の一次対応病院として、地域の医療機関との連携は大切な要素です。最近は、外来化学療法を始める前に、相談支援センターを通じて、患者さんの自宅に近い医療施設を選定する試みを開始しています。
Cancer Review on WEB
インタビュー[08 Spring]
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国立がんセンター中央病院・通院治療センター医長 田村研治氏
2008/03/28

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