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ミニ・インタビュー
脳腫瘍治療に本格的な薬物療法の時代が到来
名大医学部附属病院遺伝子・再生医療センター准教授 若林俊彦氏

2008/01/09
日経メディカルCancer Review

 脳腫瘍治療に新しい選択肢が続々と加わっている。とりわけ、一昨年に悪性神経膠腫を適応に承認された治療薬テモゾロミドカプセルは、脳外科医にあった「化学療法への不信」を払拭しつつあると言われている。生存期間を改善するために放射線治療やインターフェロンベータとの併用療法の臨床研究も計画されている。最近の脳腫瘍治療の動向と今後の展望を名大医学部附属病院遺伝子・再生医療センター准教授の若林俊彦氏(写真)に聞いた(写真:太田未来子)。

―― 最近の脳腫瘍の治療方法には大きな変革が起こっているという印象があります。

若林 まさにその通りです。手術法では、術中MRI装置の導入により腫瘍摘出精度が格段に向上しました。放射線治療もガンマナイフのほかに、NovarisやTomotherapyなど高精度局所放射線治療法が登場しています。化学療法の分野では、経口のアルキル化剤テモゾロミドカプセル(以下テモゾロミド)の登場を契機に、化学療法全体に力を注ぐ気運が専門家の間に高まっています。

―― テモゾロミドの登場は脳腫瘍の化学療法をどのように変えたのですか。

若林 脳外科医の化学療法に対する考えを一変させたといっていいでしょう。以前は、脳腫瘍を専門としない脳外科医の間では脳腫瘍の化学療法の有効性を疑問視する声が支配的でした。しかし、テモゾロミドを使って、化学療法も期待できるという考えに変わったという声が多い。

―― 化学療法が信じられるようになったということですか。

若林 脳腫瘍の専門医は化学療法の重要性を認識していました。しかし、脳腫瘍が専門ではない脳外科医は、脳腫瘍の専門医が化学療法について議論していても、どちらかといえば冷ややかでした。

 日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)でも2つの臨床研究が行われていましたが、治療法を大きく変えるような成果はまだ出てきておりません。これは、本邦の脳腫瘍治療に携わる脳神経外科医にとっても良い効果は生み出せません。しかし、テモゾロミドの国内臨床治験は、23例の症例登録が非常に短期間で実施されました。これは期待の高さに表れです。また先日、国立がんセンターの脳神経外科の渋井壮一郎先生が会長となって第25回日本脳腫瘍学会学術集会が開催されたのですが、テモゾロミドについて、参加者が非常に熱心に深夜に及ぶまで討論を展開していました。それまで、この学会でも化学療法の話題がここまで活発に議論されることがありませんでしたから、とても印象的でした。

承認1年で日本国内2000人以上が使用

―― New England Journal of Medicine 352(10)987,2005に海外のデータが発表されています。

若林 Stuppらの報告ですね。初発の神経膠芽腫の患者に“テモゾロミド+放射線療法”併用群(287例)と放射線単独療法群(286例)とを比較した試験ですが、併用群は全生存期間を有意に延長させ、その中央値は放射線単独療法群が12.1カ月であるのに対して、併用群は14.6カ月と2カ月近い積み増し効果が認められました。非常に重要な報告で、現在ではこれが世界の標準レジメンになっています。これは日本でも事情は同じで、Stuppレジメンが既に標準のレジメンとして取り扱われています。

―― このStuppの報告と日本の国内臨床治験との間で、何か異なるところはありましたか。

若林 基本的にStuppの報告が日本の患者でも再現されているという感触を、多くの医師が持っていると思います。国内の臨床治験は規模が小さいもので、単純に比較することはできないのですが、発売から1年を経過して、国内患者2000人以上が使用したと推定されています。これまでのところ、有効性や有害事象にも特段の人種差は見られないようです。

―― 2000人とは、患者の総数を考慮すると大変多いものですね。

若林 Stuppの報告が国内承認の前年に出ていましたので、新規患者のほかに、薬物療法を受けないで待機していた患者さんも含まれています。このため、初年度に治療を受けた患者の数がかなり大きいものになりました。2年目以降も2000人に達するかはわかりません。

耐性化を抑えるか? インターフェロンベータとの併用

―― 今後の課題を教えてください。

若林 テモゾロミドもほかの抗がん剤と同様、耐性化によって薬の効き目がなくなってしまうという問題があります。耐性化の原因は、MGMT(0-6-メチル化DNA修復酵素)という酵素の誘導であることが明らかになっています。海外では使用するテモゾロミドの用量を増やし、MGMTを枯渇化させる方法が検討されているようですが、まだ十分な成果は報告されておりません。

 一方、日本で膠芽腫への適応を持っているインターフェロンベータにがん抑制遺伝子p53を介してMGMTの遺伝子発現を抑える作用が見つかっています。したがって、併用すれば、テモゾロミドへの耐性化を抑える、あるいは遅らせることができる可能性があります。そこで、現在、JCOG脳腫瘍グループでは新しく多施設共同試験(INTEGRA study:INterferon-beta and Temozolomide for Glioma in combination with RAdiotherapy)を進めていくように準備を始めています。Stuppレジメンに従ったテモゾロミドにインターフェロンベータを週3回300万単位さらに放射線照射を組み合わせる方法です。

 これまでに、臨床応用の安全性試験を全国8施設で23例の患者を対象にした実施しました。有害事象を増幅させることは認められず、有効性を示唆するデータも出ました。ただし、65歳以上の高齢者で肺炎の死亡例が確認されたことから、特に高齢者には、肺炎などの有害事象に十分注意する必要がありそうです。

 今後、数100例の患者を対象にしたフェーズII/III臨床試験へと進めたいと考え、現在JCOG運営事務局に申請する書類を準備中です。有効性が認められれば、世界で初めての成果ということになります。インターフェロンベータが脳腫瘍に適応を持っているのは日本だけですので、日本発のグローバルスタンダードを発信し、世界的な標準治療として発展するように本邦の脳神経外科医が一丸となって本研究を推進してくださることを切望して止みません。

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