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ミニ・インタビュー
「肺がんの早期診断を実現したい」
自治医科大学ゲノム機能研究部教授・間野博行氏

2007/11/07
日経メディカルCancer Review

 症状が出た段階でかなり進行しているがんの筆頭格が肺がんである。この肺がんの早期診断に有望な原因遺伝子を自治医科大学ゲノム機能研究部教授・間野博行氏(写真)らが発見、Nature誌に報告した(Nature 448:561-566,2007)。今後、PCR法による高感度診断薬や治療薬の開発に結びつきそうな成果として専門家の間でも注目されている。研究の経緯と今後の展望を聞いた。

―― 非小細胞肺がんの原因遺伝子としてEML4-ALKキナーゼ遺伝子を特定して、Nature誌に報告しましたね。どのように見つけたのですか。

間野 62歳の男性喫煙患者の肺腺がん検体からcDNAライブラリーを作成し、これらcDNAをレトロウイルスの発現ベクターにつなぎ、マウス線維芽細胞由来するであるNIH3T3細胞株に導入、フォーカスの有無を指標に形質転換能のあるcDNAを探していきました。その結果、見つかったのが今回報告した遺伝子「EML4-ALK融合遺伝子」でした。

―― この遺伝子の特徴はどのようなものですか。

間野 その名前の通り、ALKキナーゼ遺伝子とEML4という遺伝子の融合した特殊な遺伝子であることです。EML4(Echinoderm microtubule associated protein-like4)は、細胞の形体形成、細胞内物質移動の中心メンバーであるに重要な微小管(microtubule)に結合するたんぱく質の1種、一方のALKキナーゼは神経細胞に発現している受容体型チロシンキナーゼの遺伝子ですが、リガンドははっきりしていません。EML4遺伝子のN末端から496塩基の部分とALKキナーゼの細胞内のキナーゼ領域の1058塩基からC末端の1620塩基までの部分が融合した構造を持っています。

―― どうして融合したのでしょうか。

間野 どちらの遺伝子も2番染色体短腕内にそれぞれ逆方向に存在しています。両遺伝子に挟まれた部分がEML4遺伝子が逆転して(逆位)、融合した形になっています。慢性骨髄性白血病(CML)において染色体転座の結果の原因遺伝子として、BCRとABLチロシンキナーゼ遺伝子が融合した特殊ながん遺伝子(フィラデルフィア染色体)が原因であることが有名ですが生じることが知られていますが、それと同じ様なことが起こっていたと言うことができます。

 肺胞特異的な発現を起こさせる肺サーファクタントC遺伝子のプロモーターに、この遺伝子をつないでマウス胚性幹細胞に導入して、肺にこの遺伝子を発現するトランスジェニックマウスを作成しました。このマウスでは生後2週間で肺に腫瘍が形成されましたから、EML4-ALKは非常に強い、細胞がん化能力を持っていると言えます。

―― 1人の患者さんのcDNAライブラリーから見出された遺伝子ですが、ほかの肺がんの原因になっている可能性はどうでしょうか。

間野 これまでに33例の患者試料を検討しましたが、5~10%の非小細胞肺がんに存在していそうです。胃がんや大腸がんでも検索していますが、まだ見つかっていませんので、非小細胞肺がんに特異的な原因遺伝子ではないかと思います。

―― 臨床応用の可能性はどのようなものが考えられますか。

間野 まず有望なのは、現在のところ手遅れとなることが多い非小細胞肺がんの早期診断を可能にする遺伝子検査薬の実現です。

 PCR法を使えば、現行の喀痰検査とは桁違いに高い感度でがんを発見できることになるはずです。既に、検査薬の企業と共同研究を始めていますが、2008年には臨床試験に着手したいと思います。もし、検査で陽性となれば、手術が適応となる、あるいは将来開発されるであろうALKキナーゼ阻害剤の投薬を開始するという新しい治療法も可能になると期待できます。

―― 既にチロシンキナーゼ阻害剤が臨床的に利用されています。それらの薬剤にはEML4-ALKキナーゼを阻害する働きはないのですか。

間野 既に臨床応用されているチロシンキナーゼ阻害剤を入手して試みてはいますが、阻害活性のある薬剤は見つかっていません。治療薬開発のためには、新しく阻害効果がある分子を探索していく必要があると思います。融合遺伝子という特殊な遺伝子ですので、CMLのイマチニブ(商品名:グリベック)のように選択性が高い治療薬が開発できるのではないかと考えています。

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