日経メディカルのロゴ画像

ミニインタビュー
条件の悪い乳がん患者さんに大量化学療法の有効性を検証したい

2007/07/19
日経メディカルCancer Review

東海大学医学部附属病院乳腺・内分泌外科教授 徳田裕氏(写真◎広瀬久起)

 腋下リンパ節への転移が多い、もしくはHER2陰性、ER陰性、PgR陰性などがそろい踏みするトリプルネガティブ乳がんの予後は悪い。ところがここ数年、こうした条件が悪い乳がんの予後を大量化学療法と自家骨髄移植で改善できる可能性が出てきた。国際規模の臨床試験(HITスタディー)が計画され、日本からも参加を念頭においた予備的な試験プログラム(JSCT-BC07)が立案されている。BC07の発足メンバーの一人、東海大学医学部附属病院乳腺・内分泌外科教授の徳田裕(とくだ ゆたか)氏に試験の意義と課題を聞いた。(聞き手:小崎丈太郎)

―― 乳がんの大量化学療法とはどのようなものですか。

徳田 HITスタディーを例にお話すると、手術後の「トリプルネガティブ(HER2陰性、ER陰性、PgR陰性)で腋下リンパ節転移が4~9個、あるいはHER-2ネガティブで腋下リンパ節転移が10個以上のIIA~IIICの患者さん」に術後補助化学療法として、EC療法(エピルビシン90mg/m2+CPA600mg/m2)とパクリタキセル175mg/m2を投与。さらに自家骨髄移植を用いた大量化学療法を2回行い(タンデム移植)、予後の悪い乳がんをたたこうという治療法です。HITスタディーは多国籍無作為割付臨床試験で、欧米のグループを中心に準備が進んでいます。目標症例数は522例です。

――  日本からもこのHITスタディーに参加するのですか。

徳田 日本ではタンデム移植の経験も少ないので、まず国内で18例を目標に、安全性の検証をエンドポイントとした試験JSCT-BC07を先行させます。安全性が確認され、患者さんにHITスタディーに参加することによる不利益はないということが結論できたら、HITスタディーに参加したいと考えています。先月、横浜で開催された日本乳癌学会総会の開催時に、大会終了後に関心がある先生方に集まっていただき、私が研究代表者、北九州市立医療センター内科の大野裕樹氏が主任研究者として参加を呼びかける集会を持ちました。

―― そもそもなぜ、このような大量化学療法が必要なのでしょう。

徳田 腋下リンパ節への転移が多い、もしくはトリプルネガティブの患者さんは予後が悪いからです。こうした条件の患者さんを治療するために有効な武器がないというのが現在の状況です。実は、過去に、われわれも1回の骨髄移植を組み合わせた大量化学療法を行っていました。米国でも年間数1000例が行われてきました。その効果を検証する臨床試験が多数組まれましたが、そのほとんどがネガティブという結果に終わりました。しかも、ポジティブな結果を出していた試験結果に、捏造されたデータが含まれていることがわかり、大問題になりました。2000年のことです。この結果、大量化学療法は根拠がない治療法ということになり、ほとんどの国々で臨床試験以外では行われることがなくなりました。

支持療法、骨髄移植の進歩が貢献

―― では、大量化学療法が復権してきたのはなぜですか。

徳田 ドイツのグループが大量化学療法で条件が悪いがんでも生存期間が有意に延長するという発表を行ったことが大きい。2005年のLancet(Nitz UA,et al:Lancet;366:1935-44,2005)で全生存期間(OS)の改善が報告されました。昨年の米臨床腫瘍学会(ASCO)では、サブセット解析の結果、トリプルネガティブでもOSを改善すると報告されました。それまで、無病生存期間(DFS)を改善すると言う報告はあったのですが、OSを改善するということは衝撃的でした。また、2000年前後に行われてきた臨床試験15個をメタアナリシスした結果でも、大量化学療法が有効という解析結果が出たという情報もあります。こうした状況からHITスタディーが提案されたわけです。

―― なぜ最近になって、有望な結果が出てきたのですか。

徳田 G-CSF(顆粒球コロニー刺激因子製剤)などを使った支持療法の進歩、骨髄移植より侵襲性が少ない末梢骨髄移植(PBSCT)が安定した技術になったこと、化学療法自体の安全性の向上などが寄与した可能性があります。個々に行われた臨床試験も規模が小さく、有意差が出にくかった側面もあります。もっとも2000年で熱気が冷めた時点でも、大量化学療法が全然だめだという結論が下されたわけではありませんでした。

―― 決定的な評価が明らかになる前に、熱気が冷めたということですね。日本ではBC07による安全性確認が重要なわけですが、最初の関門は何でしょうか。

徳田 被験者が集まるか否かです。外科の先生方がこの試験の意義を理解して、患者さんに説明して送ってくれるかが問題です。またPBSCTを行うのは血液の専門医が中心になるので、そうした医師らの協力が不可欠です。

 乳がんの治療法は早く、時間をかけていると対照としたプロトコールが陳腐なものになってしまいます。なるべく、迅速に試験をまとめて、すぐに結論を出さないと意味はありません。年内に症例を集め、今年の今頃には結論を出したい。そのために多くの先生と患者さんの理解と協力が必要です。

  • 1
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

Cancer Review on WEB

この記事を読んでいる人におすすめ