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期待の腎細胞がんの分子標的治療薬 でも副作用には細心の注意が必要です
慶應義塾大学医学部泌尿器科学専任講師・大家基嗣氏

2007/05/10
日経メディカルCancer Review

 欧米では腎細胞がんの第1選択薬として分子標的治療薬が推奨されている。日本国内でも開発が進む分子標的治療薬の評価をめぐって日本泌尿器科学会総会(4月14日から17日、神戸市)では活発な議論が展開された。企画「Debate」で、分子標的治療薬について講演した大家氏に、改めて聞いた。

「分子標的治療薬の登場で、腎細胞がんの治療が大きく前進する可能性がある」と話す大家氏。

-- 腎細胞がんでは、がん抑制遺伝子の一つであるVHL遺伝子(von Hippel-Lindau遺伝子)の変異が、非常に大きな意味を持っているのですね。

大家 腎臓がんの8割は淡明細胞がんであり、そのうち約6割にVHL遺伝子の変異が認められます。VHL遺伝子はがん抑制遺伝子で発がんの初期過程に関わっています。VHL遺伝子は転写調節因子HIF(hypoxia inducible factor)の分解に関与していますが、HIFは腫瘍細胞の増殖因子であるTGFα、腫瘍血管の増殖を促すPDGFの遺伝子、VEGFの遺伝子の転写を促進します。したがって、VHL遺伝子が変異を起こすとHIFを分解する働きが低下し、逆に増殖因子が過剰に生産され、結果的に腎細胞がんの発生や増悪の原因になると考えられます。

 しかし、VHL遺伝子の変異だけでは、残り4割の淡明細胞がんの発症は説明できないので、「VHL遺伝子変異だけが原因」とは言い切れません。また、淡明細胞がんのほかに3種類の腎細胞がんがありますが、それらにはVHL遺伝子変異は認められませんが、「少なくとも半分の腎細胞がんはVHL遺伝子変異と深い関係がある」ということは言えると思います。

-- 欧米では従来のサイトカイン療法に代わる形で分子標的治療薬を第1選択となっているようです。これらはどのような薬ですか。

大家 SunitinibやSorafenibなどですね。Sunitinibは、VEGFR(VEGF受容体)やPDGFR(PDGF受容体)のチロシンキナーゼの働きを阻害します。またSorafenibはそれら受容体チロシンキナーゼに加え細胞内因子であるRaf遺伝子のキナーゼの双方を阻害する薬剤ですが、われわれが2002年に発表したデータでは、Rafキナーゼの下流にあるMEKの阻害剤を使っても腎臓がんの増殖を止めることはできませんでした。したがって、Sorafenibの腎臓がんに対する効果は、VEGFRキナーゼに対する阻害効果によるところが大きいと考えられます。

 SunitinibあるいはSorafenibが登場して、インターフェロンやインターロイキン2などのサイトカイン療法が姿を消すということはないでしょう。サイトカインは承認されて20年の歴史があり、副作用が出た場合にどのように対処すればいいのかを我々専門医は熟知しています。当然ですが、分子標的治療薬にも副作用があります。代表的な副作用は、手足の皮膚障害、高血圧などです。Sunitinibでは従来の抗がん剤で見られるような骨髄抑制もあると指摘されています。手足の皮膚障害では、尿素系の軟膏などを塗布したりして対処しますが、重症になる患者では減薬や休薬が必要になります。副作用の管理という点では、まだ試行錯誤の面があり、サイトカイン療法ほど使い慣れているとはいえません。

■リバウンドにはよりいっそうの注意が必要

-- 薬効評価の点では既存のサイトカイン療法よりも優れているようですが。

大家 分子標的治療薬の奏効率(RR)は40%内外ですが、サイトカインの奏効率は確かに分子標的治療薬に比べ低く10~20%程度です。奏効率については、分子標的治療薬が圧倒的に高いのですが、サイトカインでは5%くらいにCR(完全奏効)が起こり、長期に生存する患者さんがいます。これは分子標的治療薬にはなかなか見られない現象です。

 現在のところ明らかになっている分子標的治療薬の成績は、いずれもPFS(無進行生存期間)です。PFSでは、従来のサイトカインをはるかにしのぐ成績をあげていますが、生存期間 (OS: overall survival)を評価するには時間がかかります。OSで差が出なければ、薬の評価が下がることは避けられないでしょう。

 両剤が登場した際には、患者による使い分けも考慮されるべきでしょう。患者さんの年齢が若くて全身状態がよく、肝臓転移巣による胆道閉鎖や肺転移による気道への圧迫があり、転移巣を縮小したいと思うときは、Sunitinibが適しているかもしれません。一方、全身状態が良好とはいえない患者さんには比較的副作用が軽度なSorafenibが適しているかもしれません。

 また、分子標的治療薬は無効になると、いっきに病勢が進展するリバウンド現象が見られるといわれています。これもサイトカイン療法には見られない現象です。サイトカインと分子標的治療薬をどう使い分けるかと考えたときに、最初に分子標的治療薬を使い、無効になった段階でサイトカインに切り替えるという方法もありますが、もしリバウンドが起こると、この切り替えがうまくいかない結果になります。今後の治療成績を見守りたいのですが、リバウンドが見られることは治療の幅を狭めることになるので厄介な問題です。

-- 分子標的治療薬の無効化の克服が、生存期間の延長に大きな意味があると思いますが、無効となる仕組みについてはどのくらい明らかになっているのでしょうか。

大家 なぜ分子標的治療薬に抵抗性となるのかを考えるときには、がんという組織のヘテロジェナイティーを考慮する必要があります。「異質性」といいますが、増殖に使われているシグナル伝達経路も1種類とは限りません。一つの経路を遮断できたとしても、別の経路を使って細胞増殖が維持されることもあります。これを「剰余性」といいます。代替経路が活発に活動している、分子標的治療薬に対する感受性の低い細胞が選抜されていき、結果的に無効となる可能性があります。

 がんに対する有効性の向上のために、作用機序が異なる治療薬を併用すればいいのではないかという議論は大変重要ですが、分子標的治療薬どうしの併用は副作用を考えると現実的ではないと思います。分子標的治療薬とサイトカインを併用する臨床試験が欧米で進行していますが、これは注目すべきアプローチと考えられます。

 分子標的治療薬の登場によって、腎細胞がんの治療が大きく前進する可能性があります。しかし、その一方で、副作用の管理や適正な用量、使用頻度など、まだ解決すべき課題があります。日本国内に登場した後も、医師と基礎研究者、メーカーが密な連携を維持しながら、それらの治療薬としての可能性を最大限に活かす道を追求し続けていくべきでしょう。

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