
がん診療連携拠点病院制度がスタートしたが、「まだまだ不十分」という声も上がっている。国立がんセンター総長として、この制度の立案にあたった垣添忠生氏はこうした声をどのように聞いているのだろうか(写真◎柚木祐二。インタビューの詳細は日経メディカルCancerReview夏号に掲載します)。
―― がん診療連携拠点病院の制度が発足しましたがいろいろな不満や注文が患者団体や一部医療関係者、マスコミなどから出ていますね。
垣添 私は、現在のがん診療連携拠点病院の制度が完璧なものだとは全然思っていません。でも、重要な第一歩であるとは思っています。
一つはわずかですが、経済的なインセンティブをつけることができたということ。
経済的な基盤がなければ制度は実効性のあるものになりません。金額的にわずかでありますが、これは大変意義があることだと考えています。
それともう一つの意味は答申に患者さんの声を取り入れたことです。答申をまとめるワーキンググループに4つの患者団体から代表者に来ていただいて、話をしていただきました。
―― 今後は指定を受けた病院の医療をどのようにレベルアップしていくのかという話になりますね。
垣添 一足飛びに理想に到達できない現実があります。例えば、放射線治療ができなくてもがん診療連携拠点病院に指定され得ることに疑問や批判があることは承知しています。しかし現在、国内に放射線治療ができる医師はたった500人しかいません。
当然ですが病院間で連携して放射線治療を行うという地域が出てきていいと思います。患者さんも自動車で1時間程度のところであればそこへ通院して放射線治療を受けるということが必要になります。
放射線だけではなく、難しい手術や化学療法なども、患者さんも家族も意識を変えてほしい。どんな医療も身近の医療機関で受けることができるというわけにはいきません。
そういうことをすることによって、過渡期の状況を乗り越える。10年たてば、事情は大きく変わっているはずです。
―― 10年かかりますか。
垣添 人材育成の問題ですから、時間はかかります。現在、厚生労働省とともに文部科学省もそのようながん医療均てん化を実現するための人材を医学部や大学院でどのように養成するかについて、施策を具体化しつつあります。
指定要件は難しくなる
民間病院も参入してほしい
―― 現在の厚生労働省のがん診療連携拠点病院の通達は、指定要件に「望ましい」という言葉が非常に多い。放射線治療も化学療法も「望ましい」ですが、将来はこうした要件が義務に格上げされていくと考えていいのでしょうか。
垣添 そうならないといけません。だんだん厳しくなることは皆さんも分かっているはずです。
―― 拠点病院は現在286ですが最終的にいくつくらいになるのですか。
垣添 厚生労働省は400くらい必要と考えているようですが、私は350くらいがいいのではないかと思います。あまり多過ぎてもよくないと思いますね。
―― 民間病院の中にも手を挙げようというと動きがかなりあるようです。
垣添 これからどのように病院を運営していくかという視点からもがん診療連携拠点病院に指定されるかどうかは大きな意味を持ってくると思いますよ。
◎Profile
垣添忠生(かきぞえ・ただお)氏
1967年東京大学医学部卒業。72年に同大泌尿器科文部教官助手。国立がんセンターの通いながら膀胱がんの基礎研究に従事。75年から国立がんセンター病院に勤務。手術部長、中央病院長を経て、04年に総長に就任。07年4月から名誉総長。