日経メディカルのロゴ画像

Key Person's Voice
「在宅療養支援診療所にはまだ多くの課題があります」
ホームケアクリニック川越院長 川越厚 氏

2007/04/03
日経メディカルCancer Review

 入院中心から在宅中心へ--。進行患者の在宅医療の普及を目的に新設された在宅療養支援診療所制度が2006年4月にスタートして1年が経過した。制度の設計に中心的に携わり、自身も在宅療養のがん診療を実践してきたホームケアクリニック川越の院長の川越厚氏に、制度施行後のこの1年を評価しもらった。(聞き手=依田憲枝)

ホームケアクリニック川越院長の川越厚氏

―― 平成18年度の医療保険制度改正で新設された在宅療養支援診療所がスタートして1年が経過しました。現時点でどのようなことが見えてきたでしょうか。

川越 制度開始後に私が最も驚いたことは、届け出が考えていた以上に多かったということです。事前の予測では、全国の一般診療所約10万カ所のうち、届け出は5%程度と考えていました。しかし、現在はその2倍の約1万カ所に上っています。「とりあえず届け出ておこう」という診療所が多かったのではないでしょうか。数が多い自体は良いことですが、内容が伴わないまま数だけが増えてしまうことを一番危惧していました。そうならないために、在宅療養支援診療所の要件を厳しく設定しているのです。

 この改正の大きなねらいは「高品質の在宅医療の提供」にあります。医療者が責任を持って24時間ケアを担うと、患者さんとその家族に表明しているのですから、届け出た以上は大きな責任が伴うことを自覚しなければなりません。にもかかわらず、処置が簡単な患者さんは在宅療養支援診療所として往診し、高い保険点数を取り、手のかかる患者さんはすぐに入院させてしまうというように、患者さんによって制度を使い分けている在宅療養支援診療所が存在することは非常に困ったことです。

―― そのように患者さんを選んでいる在宅療養支援診療所に対する対策は。

川越 次回の改正で制度として徹底すべきですね。場合によっては厚生労働省が通知を出すことで解決できるのではと思います。

―― 在宅療養支援診療所としての要件を徹底した結果、届け出る診療所の数が減るかもしれません。

川越 要件にある在宅ケアができないのであれば降りてもらうことになりますし、それで数が減るのはやむを得ません。既に届け出を取り下げた診療所もあると聞いています。だからといって、在宅療養支援診療所がゼロになることはありません。踏み留まる診療所には24時間ケアの充実に取り組んでいただきたいし、政府は本当にやる気のある診療所が働きやすい環境づくりに力を入れてほしいですね。

―― これからは在宅ケアの質を高めていく方向にある、ということですね。

川越 そうです。ただ現状では、在宅療養支援診療所の要件にある「チームケア」が十分に機能していません。チームケアがうまく機能するには、医師や看護師、薬剤師その他のチームのメンバーで情報を共有することが大切です。例えば疼痛緩和に関してその診療所の一定のやり方を明示しておく。情報の共有はマニュアル化すればさほど難しくはないでしょうから、次回の改正で盛り込むべきだと思います。

 疼痛緩和のように迅速な対応が必要な場合、医師がマニュアルであらかじめ具体的な指示を出しておけば、看護師は医師が駆けつけるのを待たずに処置でき、患者さんは長い時間痛みに苦しまずに済みます。現行の法律との整合性は大きな課題ですが、看護師の裁量権を拡大して「事前約束指示」の方式を取れば、患者さんの利益になりますし、医師の負担も軽減されると思います。


24時間対応できる体制作りと
モルヒネ皮下注射の技術が必要


―― 医師の中には、在宅療養支援診療所として続けられるだろうかという不安もあるのではないでしょうか。

川越 在宅療養支援診療所を続けるためには、大変な努力が必要です。だからこそチームケアが大切なのです。24時間ケアにはコツがあります。

 入院患者さんは直接医師を呼ぶことはありません。まずナースコールを鳴らしますよね。在宅ケアもファーストコールは看護師が受けるようにするのです。どうすれば24時間対応可能な体制をきちんと作れるか、医師への教育・研修も必要です。また、末期がんの患者さんに質の高い在宅ケアを提供するためには、モルヒネの皮下注射ができる疼痛緩和能力が求められます。注射薬を使った疼痛緩和に不慣れな医師に対する研修も必要でしょう。

 もう一つ、迅速な対応が求められるのが死亡診断です。一定の条件を満たせば、事前約束指示に従って医師の死亡診断を待たずに看護師等による死後処置を認め、法律的にも保証されるように、厚労省の研究班で制度を検討しています。

―― ところで、患者さんはこの制度をご存知でしょうか。

川越 患者さんに限らず、在宅療養支援診療所や患者さんを送り出す病院など、あらゆるところから情報公開を求める声が上がっています。それは厚労省もよく把握しているので、何らかの手が打たれるでしょう。早急に全国の在宅療養支援診療所のデータベースづくりが必要ですね(注:現在はWAM NETに一覧が載せられている)。また次回の改正では、患者さんの相談窓口を設けるなどして患者さんの声を制度に反映できる仕組みも考えなければなりません。

 在宅療養支援診療所は、「やってみると大変」という声はあっても、否定的な意見は聞かれません。今後はいかに制度をうまく運営するかが課題ですが、在宅ケアの推進には地域の力が不可欠です。地域とうまく連携できれば,在宅療養支援診療所が少数でもやっていけると思います。例えば、ボランティアの養成や活用などで何らかの評価基準を設け、地域の力を引き出している在宅療養支援診療所を診療報酬で評価するような改正にしていただきたいと思います。

【参考サイト】
全国保険医団体連合会
http://hodanren.doc-net.or.jp/news/tyousa/061019sien-sinn.html

WAM-NET
http://www.wam.go.jp/iryoappl/menu_control.do?init=y&scenario=b4

  • 1
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

Cancer Review on WEB

この記事を読んでいる人におすすめ