消化管で吸収されて血液中に入る割合(バイオアベイラビリティー)が他の系統の経口抗菌薬に比べて低いことなどから、「経口第3世代セフェム=だいたいウンコ(DU)」という「DUの定理」が成り立つ――。2015年、国立国際医療研究センター国際感染症センターの忽那賢志氏が日経メディカルOnline内のコラムで警鐘を鳴らした「経口第3世代セフェム」(「だいたいウンコになる」抗菌薬にご用心!)。経口第3世代セフェム不要論の高まりを受け、2019年2月22日~23日に開催された第34回日本環境感染学会総会・学術集会で、「病院で第3世代経口セフェムの採用は必要か」というテーマでのPros&Consセッションが開催された。Prosの立場で中浜医院(大阪市旭区)院長の中浜力氏が、Consの立場で大阪大学医学部附属病院感染制御部教授の朝野和典氏が発表した。

 今回のPros&Consセッションのテーマは、経口第3世代セフェムの効果そのものというより、「病院で」経口第3世代セフェムを採用するかどうかという点に絞って展開された。Prosの立場で発表した中浜氏は開業医だが、「かぜへの経口抗菌薬の処方行動と、外来耐性菌の分離率と推移という点から病院勤務医と開業医は近似しており、『外来臨床医』として2つの就業形態を統一可能だ」として、「外来臨床医」の立場から発言すると表明した。

「第3世代経口セフェム薬が第1・第2選択薬として有効な感染症はいまだに多い」

「病院で第3世代経口セフェムの採用は必要か」というテーマで、Prosの立場から発表する中浜力氏(中浜医院)。

 まず中浜氏は、臨床的有用性として、経口第3世代セフェムであるセフカペン(商品名フロモックス他)、セフジトレン(メイアクト他)、セフジニル(セフゾン他)、セフテラム(トミロン他)の治験における有効率を示し、「ほとんどの感染症で90%を示しており、発売時は高い有効性を有していた」と説明。日本感染症学会と日本化学療法学会の『JAID/JSC感染症治療ガイドライン―呼吸器感染症―』における経口セフェム薬の適応菌種と適応症を見ると、経口第1世代セフェムに比べ、経口第3世代セフェムはグラム陰性菌に抗菌活性が強いこと、適応症では成人や小児の市中肺炎や各耳鼻科感染症に推奨薬として掲載されていることを挙げた。

 また、小児のA群β溶血性レンサ球菌(GAS)感染症患者に対しセフカペンを5日投与した群とアモキシシリンを10日投与した群の間で臨床効果も細菌学的効果も有意差がなかった(Sakata H. JIC:2008;14:208-12.)ことから中浜氏は「GAS治療はむしろセフカペンの方が短期間で同等の効果を示した」と指摘。小児GAS咽頭・扁桃炎の治療効果比較では、アモキシシリンを投与した群とセフジトレンを投与した群を比べ、臨床効果に有意差が認められなかったことから、「セフジトレンのアモキシシリンに対する非劣性が示された。このデータは2017年の小児呼吸器感染症診療ガイドラインにも引用された」と話した。

 COPD増悪患者を対象とし、2013年に報告されたオープンラベルランダム化比較試験では、セフジトレンとレボフロキサシンによる治療成績を比較した。セフジトレン200mgを1日2回投与し、5日間継続したセフジトレン群と、レボフロキサシン500mgを1日1回7日間継続したレボフロキサシン群の治療成功率を比べると、それぞれ80%、75%で、有意差はなかった。そのため中浜氏は、「経口第3世代セフェムはCOPD増悪例のニューキノロン系薬に次ぐ選択薬としては有用なのではないか」と提案した。他に、高齢者施設で15例の肺炎球菌性肺炎患者が集団発生した際にセフジトレンを予防薬として投与したところ、翌日から肺炎発症が著減し、その後の発症者が1例にとどまったケースから、「セフジトレンは肺炎球菌による侵襲性感染症の抑制と、非侵襲性の気道感染症の重症化を予防した」と推察した。

 こうした点から中浜氏は、「経口第3世代セフェムの当初の適応疾患の多くは、その後第一選択薬がニューキノロン薬に置き換わっているが、現在も経口第3世代セフェムが第一、第二選択薬として有効な感染症は各領域に多くある。感染症専門家の責務として、経口第3世代セフェムの現在の適応疾患・菌種・投与量を再検証する必要がある」とした。

「有効性はバイオアベイラビリティーだけでは評価できない」
 抗菌薬は、体内で蛋白と結合すると血管壁を通過できず、組織間質の感染巣に到達できなくなる。中浜氏は「セフェム薬は吸収率や最高血中濃度(Cmax)が低く、蛋白結合率が高いことから体内動態が不良で、臨床では不要との意見が聞かれる。しかし、臨床でセフェム薬が有効な例がこれほど多いことは、単に効果があるのは軽症例だからという論では説明がつかない」と主張した。

 そこで中浜氏は、「セフトリアキソンセフォペラゾンガレノキサシンテイコプラニンなど、蛋白結合率が90%以上の抗菌薬は他にも臨床で汎用されている」と挙げた。特に抗真菌薬のイトラコナゾールについて、「各種カンジダ症で高い有効率を示しているが、同薬の蛋白結合率は99.8%。つまり、200mg服用しても、そのフリー体の換算値は0.0431ng/mLしかないことになる。それでも、実際の各種臨床分離株のイトラコナゾールのMIC(最小発育阻止濃度)は63~1534μg/mLと高い」と、臨床での有効性と蛋白結合率の高さが乖離しているケースを挙げた。

 この乖離を検証しようとした2017年の論文では、人の血液環境に近い4.5%ヒト血清アルブミン添加培地で肺炎球菌に対するセフェム薬の殺菌性を調べている。その結果、ヒト蛋白が存在する環境下でもセフェム薬は殺菌効果を発揮していた。また、蛋白結合率が99%のアニデュラファンギンは、アスペルギルス・フミガータスに対し、換算フリー体濃度では殺菌性が認められなかったが、75%ヒト血清添加条件で強い殺菌性を示した。同様に、セフジトレンは結合性が88%だが、肺炎球菌に対して90%ヒト血清存在下で、より強い殺菌性を示している。

 これらのことから中浜氏は、「ヒト血清中には抗菌薬の殺菌力を促進する要因がある可能性がある」と主張。同時に高齢者では蛋白結合率が低下するとの考えも示し、「蛋白結合率は生体内効果の予測因子としては重要だが、それだけでは臨床有効性を十分に説明できない。すなわち、経口セフェム薬の臨床効果に影響する因子はさらなる検討が必要だ」とまとめた。