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21世紀医療フォーラム「若手医師のキャリアパス」ワーキンググループ第1回会議を開催

2010/06/03
21世紀医療フォーラム取材班

医師の臨床実績をいかに評価していくか


森山氏のプレゼンテーション終了後、参加者からの質疑及び議論が行われた。東京女子医大教授の渡辺俊介氏から、第2の論点の中の「統一の医師団体(連盟)」についての質問があった。森山氏は「日本医師会を巻き込んで、勤務医、開業医を含めた例えば弁護士会のような総合的な団体を作りたい。米国では法律で強制加入が義務付けられた団体が懲罰委員会などを傘下に持っている」と答えた。

ノバルティスファーマ社長の三谷宏幸氏からは、「専門医研修のスタンダートな達成目標は設定されつつあるのか」という質問があった。これに対し森山氏は、「現在、各学会で、専門医の更新基準は厳しくなりつつあり、キャリアパスの共通認識は進んでいる。ただ、家庭医、総合医に関する教育の到達目標等がまだ曖昧なのが問題」と、語った。

IMSジャパン会長の佐伯達之氏は、「医師個人がどれだけの症例を、どのように扱ったかといったデータベースは確立されているのか」という疑問を投げかけた。「それが確立されていないと、医師のインセンティブを決めようがないのではないか」という問題意識だ。これについて森山氏は、「医師の扱う症例数等は、あくまで自己申告である。専門医更新の際には、細かなデータが必要とされるものの、医師個人からの自己申告で学会に提出される」と説明した。

背景には、皆保険制度に基づく医療点数制度がある。米国では、医師の実績に対して、給与の面でも大きな差が付くが、日本の場合、ベテランの医師であっても、新人の医師であっても、同じ医療行為には同じ点数しかつかない。そのため収入も比較的フラットであり、医師の実績、評価等のデータベース化は、殆どの病院では進んでいないという。

『医療戦略の本質』(マイケル.E.ポーター著/日経BP)の翻訳者で、今回はゲストとして出席した科学技術振興機構研究開発戦略センターの山本雄士氏は、米国が作った勤務医の評価ツールについて言及した。「臨床を評価するのは非常に難しいが、やらないわけにはいかない。そこで米国では5年、10年かけて手直しを繰り返し、それなりに良い評価ツールを作っている。ただ、それを日本に輸入しても使えない。そもそも医師への評価を何のために実施し、どのように使うかが決まっていないからだ」。

内閣府総合科学技術会議議員の本庶佑氏は、これについて「臨床を評価する明確な基準、プルーフとなる情報、さらに評価後のインセンティブの3つが全部そろわないと、医師の実績の評価はできない。やっても意味がないだろう」と論じた。

納得性の高いデータベースが整備されれば、現場も変わる


臨床医の評価に関しては、三谷宏幸氏も、企業人の立場から意見を述べた。「臨床実績の数値評価や、患者に喜ばれる医療サービスの面での評価、マネジメント能力の評価など、医療の評価はやろうと思えばできる。問題は評価の結果、何が得られるか。評価の結果のインセンティブやキャリアパスを決めないと、人は動かない。皆保険の制度の中でも、インセンティブや昇進の基準など決められるのではないか」。

同友会副理事長の高谷典秀氏は、循環期内科のカテーテル治療の例を挙げて、現場の動きを紹介した。「カテーテル治療で優秀な人は、私立の病院が高給で招聘するのが実情。皆保険の下でも、学会の評価や病院の財務的な評価を総合して、医師個人にインセンティブを与えていくことはできるはず」。

これに対して、佐伯氏は「議論の中で分かってきたのは、医師の実績データをいかにしっかり作るかが何より大事だということ」と論じた。「納得性の高い、良いデータがあれば、医師個人が病院と交渉できる。現場で、力のある人が報われることが積み重なっていけば、全体が変わっていくのではないか」という意見であった。

最後に「資源配分の問題」を喚起したのは本庶佑氏。「皆保険である限り、資源には限りがある。その配分のルールを、どこかで決めていかなければ、現実的な議論にはなっていかない」と論じた。

会議後段のプレゼンテーション「これからの日本の医療制度を考える」では、伊藤雅治氏(全国社会保険協会連合会理事長)がまず、戦後日本の医療政策の推移を跡づけた。その上で、今後の医療制度改革へ向けて3つの重要課題を挙げた。

第1は、「医療費の総額抑制策の転換と、負担と給付の関係について選択肢を示して国民に問うこと」。第2は「医師の地域的な偏在、診療科間の偏在を是正する仕組みの導入と総合医の養成」。第3は「医療政策決定プロセスへの患者・市民の参画を法定化する」。

この課題に正面から取り組むために、伊藤氏が提言するのは、政権交代があっても揺るがない「医療基本法」の制定だ。基本法の構想は「国民皆保険制度の維持」「給付と負担に関する基本方向」「医師の適正配置についての規定」「(中医協などが集まった)医療基本問題審議会の設置」「政策決定プロセスへの患者・市民参加の法定化」などを骨子とする。この構想の内容は今後、「医療政策」ワーキンググループで、さらに深く議論されていく予定だ。

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