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「がん検診」衰退に歯止めを。日本には、早期に「予防医療」を確立することが必要

2010/06/25
医療法人社団同友会理事長 高谷典秀 氏

図1は、便潜血検査による「大腸がん検診」の費用対効果を示しています。スクリーニング費用には、検査代などの検診コストに加えて、精密検査のコストも含まれています。このスクリーニング費用と、近未来の医療費抑制効果の差が、直接的な費用対効果です。「大腸がん検診」を毎年行うことで、がんの重症化を防ぐことができます。「早期がん」なら、手術で取り除くだけなので、化学療法をしないで済み、その分だけセーブされます。当然、大腸がん検診の受診率を上げれば、将来的には、健保財政の赤字は減ることになります。


図1 「便潜血検査による『大腸がん検診』の費用対効果」
出典:(Lansdorp-Vogelaar I et al. J Natl Cancer Inst;101:1412-22, 文献1)
※文献1より改変引用、単位 US$


ただ、検診開始からの累積費用を見ると、検診実施によるイニシャルコストを取り返すにはある程度時間がかかることもわかります。例えば、「便潜血検査)を用いたスクリーニングでは、26年経って、ようやくコストがマイナスに転じています。ほかの検査法は、検診の費用が高いので時間はかかっていますが、長い目で見れば、確実に費用対効果が現れます。しかも、将来はもっと高い治療法が出てくることを考えると、このモデルは費用対効果を過小評価している可能性がありますし、日本での治療コストと直接比較することは出来ませんが、少なくとも検診費用を差し引いても医療費削減効果を認めることは確かです。

「特定健診・保健指導」も同じで、小規模なモデル事業などでは、医療費削減効果を認めたという事例もありますが、実際には「保健指導」を行うための人件費等は、かなり大きなコストを必要とします。また、本当に削減効果があるとしても、短期間で“コストセービング効果”が出てくるというものではないので、キャッシュフローの問題が解決できず、財政的なバランスを取り戻すのに時間が掛かります。積極的に推進するのであれば、健保単独の事業としてではなく、国策として将来を見据えて、国費を投資するような体制をつくるべきだと思います。

韓国に学ぶ
「がん検診」受診率向上対策

――「乳がん検診」を一例にとってみても、韓国は49.3%、イギリスは年代による差はあるものの75%前後と、受診率が非常に高いです。日本もせめて韓国並みに受診率を上げる必要があるのではないでしょうか。

高谷 「がん検診」の受診率は、諸外国に比べて極端に低すぎるので、これは上げていかなければいけないと思います。各国の乳がん死亡率比較を見ると愕然とします。欧米各国は、20年くらい前から、「乳がん検診」に本腰を入れてやるようになったところ、死亡率が落ちてきているのに対して、受診率20%と低迷する日本はどんどん右肩上がりに上がっています。検診の有効性が分かりきっているにも関わらず、政策としてできないということは非常に恥ずかしいことだと思います。

我が国でも有効性評価に基づいた「がん検診」を、受診率50%超えを目指して、ある程度費用も投入してやるべきだろうと取り組んではいるのですが、ポスターなどでのアピールだけで、イギリスや韓国のように制度化しているわけではないので、受診率は上がりません。アメリカでは、「がん検診」の受診率を上げるためにどのような手法が有効かを検証することも行われていますが、マスメディアによる啓蒙活動では効果があるかどうかはの証拠はなく、実際には受診勧奨をして財源をつけないと、なかなか受診率は上がらないことが分かっています。

――検診に関しては、国に“長期的スパンでモノを見る”視野がなく、まずは、それを変える必要があると思います。同時に国民全体に対して、「『がん検診』に対する関心を高める」「検診の有効性を理解してもらう」「検診率の向上が、医療費削減につながる」といったことを啓発していく必要があると思いますが。

高谷 むしろ、「日本における啓蒙活動は、かなり進んでいる」と考えています。2009年の内閣府の「がん対策に関する世論調査」によれば、「がん検診は、がんの早期発見、早期治療につながる重要な検査だと思うか」という問いに、「そう思う」「どちらかといえば、そう思う」と答えている人が97.4%です。「がん対策に関する政府への要望」 のトップも、「がんの早期発見(がん検診)」で、しかもそれが、医療機関の整備、相談・支援、従事者の育成、緩和ケア、手術療法などをはるかに上回っています。

つまり、「みんな検診は有効だ」と思っているのに、結局、忙しかったり、自己負担分を払うのは嫌だったりということで進んでいないというのが実態です。あとは国が制度化して、受けやすくするしかありません。

「ピンクリボン」活動のようなものは、検診の重要性を認知させるには非常に効果的ですが、それで実際に受診に結びつくところまではなかなか進まないということで、やはりいろいろミックスしてやらなければいけないと指摘されています。

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