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「がん検診」衰退に歯止めを。日本には、早期に「予防医療」を確立することが必要

2010/06/25
医療法人社団同友会理事長 高谷典秀 氏

地方財政も厳しい折り、地方主権・地域主権の大切さも承知した上で、こういった命に関わるようなことについては、住んでいる場所によって、利益を“受けられる”“受けられない”という不公平が起きるようなことがあってはいけないと思います。

一方、「特定健診・保健指導」は、保険者が実施主体になっていますが、これも伸び悩んでいます。「特定保健指導」には、大変な労力を要することからコストが高くつき、そのため実際に健診を行う中で、「特定保健指導」まで実施している例は、極めて少ないのが現状です。例えば2008年度、北海道内における実施状況を見ると、健診対象者に対する割合が北海道合計で、0.68%しか実施されていないというデータがあります。

問題は、医療保険者の財政が非常に悪化していることにあります。これは、後期高齢者医療制度に関わる納付金などの負担によって、この2~3年、急激に収支状況が悪化して、9割を超える組合が赤字という事態を招いています。そのため、なかなか保健指導に予算を回せなくなってきているわけです。

「がん検診」の実施主体は市町村ですが、実は市町村と同じくらいいわゆる職域の健診でかなりサポートされています。「がん検診」の受診率を推し量るのは、精密には難しいのですが、大きく分けて2つの指標があります。1つは、3年に1回行われる国民生活基礎調査で、無作為で選ばれた人を対象に質問形式でがん検診受診の有無を問うもの。もう1つは、地域保健・老人保健事業報告で、各自治体の「がん検診」対象者、受診者、結果の内訳について、毎年報告されるものです。

例えば、大腸がんのケースを見ると、国民生活基礎調査で表されるトータルの受診率は平成16年では21%ですが、地域保健・老人保健事業報告における受診者率が9.4%ですから、その差は健保組合の事業で行っているドックや「生活習慣病健診」といった 職域の健診が相当数を占めているものと思われます。そのことは、全国労働衛生団体連合会の統計により、平成20年度「がん検診」実施数が、地域の約461万人に対して、職域が約994万人に上っていることからも裏付けられます。

つまり、日本の「がん検診」の実態は、一般財源を利用した市町村の努力義務で行っている「がん検診」であり、医療保険者が任意で行っている健診・ドックであるという、実施義務の曖昧な事業に依存した不安定な体制なのです。

この様な環境の中で、がん検診の一翼を担っている医療保険者の財政が悪化したため、今は義務ではないがん検診やドックの事業を維持することが難しい流れにあり、医療保険者の方も、なかなか積極的に打って出られないという土壌ができつつあります。

政府が助成している「乳がん検診」の無料クーポン券は、非常にいいアイディアだと思いますが、残念ながら単発的なもの。もっとこういうものを、「がん検診」も「特定健診」も一体化して、財源も確保したかたちの制度としてうまくデザインすることが大切なのではないかと思います。

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