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国民皆保険堅持のために、必要な「負担」の議論。「総合医(家庭医)」が初診を担当する診療システム確立を

2010/04/23
医療経済研究・社会保険福祉協会理事長 幸田正孝氏

国民皆保険制度のほころびと、
皆保険が妨げになる高次医療の享受


――ドイツは国民皆保険ではないのですか。

幸田 皆保険制ではありません。ドイツの場合は、そもそもはビスマルクが労働者保護ということで始めたので、対象は企業、中小企業、零細企業の従業員など、労働者を中心に発展してきました。ドイツ国民の9割は、『疾病金庫』に加入していますが、残りの1割は『疾病金庫』に入っていません。この1割の層というのは、比較的富裕層で、10年くらい前までは、そういう人たちについて特別な規定がなかったのですが、最近、民間医療保険に入ることを強制しました。

つまり、9割は公的保険でカバーし、残りの1割は私的な民間医療保険でカバーする。日本も労働者保護から発展してきたわけですが、日本人は公平・平等の観念が非常に強いので、農民も商店主もみな健康保険制度でカバーするということで、1961年に国民皆保険制度ができました。

ただ、保険というのはどうしても標準的なものなので、最先端の治療、多くは高額医療となりますが、このようなすべてを賄うわけにはいきません、国民皆保険で全国民がカバーされていると、医療・薬学の世界最高最新、最先端による治療をすべて保障するということは難しいと私は考えています。もちろん皆保険だけれども「混合診療」にして、保険と自由診療を組み合わせるというやり方もあるとは思います。

――例えば、年収5000万円以上とか、高額所得者層の人は「国民健康保険から外れて民間の保険でやってください」と。それで良い医療が受けられるのであれば、ある意味のステータスになる可能性はありますね。

幸田 その方が合理的だし、日本の医療の進歩にもつながる気がします。例えば、松下幸之助さんも一国の総理までも、健康保険でカバーする必要があるのかということです。

――国民皆保険を堅持していくために必要なことは何か。それをやり遂げるための道筋で、一番大事なことは何でしょうか。

幸田 一番大事なのは「負担の問題」です。現在、日本の医療費の22~23%、すなわち4分の1は、国税を中心とする税金ですが、このままでは医療費全体の伸びに対応していくことは不可能です。これを今後どのようにしていくか。結局、消費税の増税を実施する、または福祉目的税などを創設する、そういうものでやっていかないと健康保険財政はパンクします。それが大きな問題です。

もう1つ、日本の国民皆保険が綻び始め、無保険者がかなり増えてきていることがあります。無保険者は、なぜ出てきたか。現在の日本の健康保険制度は、被用者保険と、自営業者を対象にした国民健康保険の2本立てでできていますが、雇用構造が変わってきて、契約社員、派遣社員、フリーター、週に3日か4日しか働かない短時間労働など、全体的に、非正規労働のウエイトが非常に増えてきました。労働者全体の“3分の1から4分の1は、非正規労働者”ではないかという統計もあるくらいで、こういう人たちの一部が健康保険の網の目から落ちこぼれてきている。そういう人たちは、国民健康保険に入っても、保険料を払えない場合もあるし、払わない場合もある。

国民健康保険料を払わないでいると、市町村から1年の期限付きで短期被保険者証が交付されます。それを持っていくと窓口負担は3割で済みますが、さらに滞納を続けると、被保険者資格証明書というのが交付されます。こちらは一旦全額支払いで、後日、保険者に申請すると償還されるといったシステムになっています。“若くて病気にならないから、保険料は払わない”という人が、どのくらいの数か推定は難しいのですが、かなり出てきている。そういうことからも国民皆保険制度がほころび始めてきていると思います。

医療は絶え間なく進歩していきます。最先端の治療には、やはり高額な医療費が必要になる。ですから、もう少し「負担の問題」を国民全体で議論していかないと、日本の健康保険は成り立たなくなります。

――ドイツの健康保険の財政が悪化していることを伺いましたが、ドイツの社会保障制度全体についてはいかがですか。

幸田 東西ドイツの統一によって起こったことの1つは、東ドイツ経済の破綻です。旧西ドイツの政府であったドイツ連邦政府の国家財政では、とても東ドイツを救済することはできません。また東西ドイツの年金も非常に格差があり、年金に限らず、統一に伴う財政負担を西ドイツの人が積み立てた年金でテコ入れしました。そのため、年金財政は非常に疲弊して、現在のドイツの年金は非常にピンチになっています。日本と同様にドイツでも、社会保障体制を維持するための財源をどのようにデザインしていくかが問われていると思います。

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