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製薬企業のあるべき姿と医療分野の成長戦略

2010/02/22
バイエル薬品会長 栄木憲和氏

九九並みに英語を話せるようにする。
会社における“英語環境”の必要性


――日本における英語教育について、どういうソリューションがあるとお考えですか。

栄木 社内でもっと英語を使う機会を増やすこと。国内製薬企業でも外国人の社員が増え、英語を使う機会が増えているそうです。ある社の社長によれば、「売り上げの半分はアメリカなのに、外国人がほとんどいない組織はおかしい、会社も島国をやめて、国際化しないとダメ」だと。もっと外国の人をどんどん会社に入れるべきだし、日本が不景気で就職難なら、外国で就職を考えるのも1つの手です。

ある治験受託会社(CRO)では、品質管理部門と、管理職は全員英語が喋れます。仕事で、インド、上海、アメリカへと、しょっちゅう査察に行くので、英語を話せるのが当たり前。治験もすべて、英語プロトコールですから。

バイエル薬品でも、外国の人がスタッフとして働いています。そうすると、否が応でも英語を喋らざるをえません。そういう環境を強制的に作り上げていくこと、会社全体がそういうことに取り組まないと。世界でビジネスをやろうと思ったら、九九ができるように英語ができないとダメですね。よく社員にも言うのですが、英語は話せたほうが、話せないより、人生は楽しい。いろいろなチャンスも広がります。

わが社のMRが大学の先生に喜ばれていることの一つに、世界的にも権威のある英文医学雑誌の情報を伝えるというのがあります。その先生の専門領域に関する最新情報の記事内容をメモし、「お時間のあるときに読んでください」と。現場の先生は、忙しいですからね。簡単なメモでも大変役に立つようです。個々のMRがこうした能力を持つことで貢献するということも大切だと思います。何よりも、MR自身の勉強にもなりますし。

急がれる臨床研究推進センター(CTC)構想の実現。


――医療情報のIT化、すなわち医療ITの今後が議論されていますが。

栄木 まず、医薬部門の全てに関してIT化が遅れていると思います。治験もそうですが、韓国が医療情報の活用で一歩抜きん出たのは、医療ネットワーク、例えば治験を受けたいというときに、どこへアクセスしたら、どういう治験を自分は受けられそうだということがわかるようにしたということです。大阪府の治験ネットワークのサイトがもうすぐ出来上がりますが、ひとり大阪だけではなく、大阪をモデルとした全国版に発展させる必要があります。

現在、千葉大学の黒川達夫先生や経産省が中心になって、臨床研究推進センター(CTC:Clinical Trial Center)構想が進められています。ここでは、臨床研究や治験の情報が全て一元化されている。実は、このような臨床研究推進センターは、現在、日本を除く世界各国には、すでに存在しています。日本では、小規模な治験センターはあちこちにありますが、日本全国の人が、そこに行けるわけではないし、どこに受けに行ったらいいかわからない。それをまとめるポータルもない。がんの場合は緊急性が高いので、患者ネットワークが充実していて、非常に成功している例があります。

――栄木さんの活動テーマの1つとして、「糖尿病予防」があります。

栄木 糖尿病は、がんほど注目されていませんが、時限爆弾を抱えているようなもので、ほんとうに怖い病気です。糖尿病は自覚症状がほとんどありませんが、悪化させると糖尿病性腎症や糖尿病性網膜症、糖尿病性神経症ほか、さまざまな合併症を引き起こし、最終的には失明や透析に至るなど、人工透析には年間1.5兆円もの医療費を使っています。

これは、がん対策の国家予算よりも多く、しかも、今後、毎年10%前後、増えていくと予測されます。このままでは、透析患者の多い健保組合は潰れてしまいます。

がんは、一過性ですが、糖尿病を患うと、一生つきあわなくてはならないケースも少なくありません。どこかでファイナンスの面倒を見ない限り、医療経済的に成り立っていかない問題で、なんらかの改善策を施す必要性があると痛感しています。

徳島県は、平成5年以来、糖尿病による死亡率が全国ワースト1位を続けていることから、平成17年11月に出した「糖尿病緊急事態宣言」で県民に注意を喚起しました。これは、徳島県と、医師会と、県民ぐるみの取り組みで、それが功を奏してワーストNo.1を脱することができました。

結局、人間というのは弱いもので、ストイックな生活は苦手で、仮に1週間ほど教育入院しても、出てきたら、すぐにまた贅沢な食生活に戻ってしまいがちです。糖尿病の一番少ない県は神奈川ですが、それは、よく歩くからだそうで、一方、徳島県は全国平均より1000歩、歩くのが少ない。1世帯あたりの車保有台数が全国1ということも、歩かないことを物語っています。

国民皆保険の堅持。
そして医療の明日に向けて


――栄木さんは、2010年から「21世紀医療フォーラム」の代表世話人となられました。この組織に期待されるものは。

栄木 最新の健全な医療を、リーズナブルなコストで受けられるようになるための、ネットワークづくりのお手伝いができればと思っています。私は、医薬品企業のR/Dの貢献により、国民の健康が改善されるべきと思っています。また、どこかで破綻がきて、日本が世界に誇るべき「国民皆保険制度」が崩れることだけは、絶対に避けなければなりません。被保険者の自己負担率は、3割が限度だと思いますし、それを堅持すべきだと思います。

そして、日本国民のうち、何百人しかいないような希少疾病を患ってしまった人や、その人たちのためのオーファンドラッグに対して、保険料をもう少し上げてでも、みんなで支え合い、シェアすべきでしょう。暴飲暴食したくなる人間の弱さも十分承知したうえで、糖尿病に1兆5000億円も使わずに済むように、製薬企業として健全に成長する方策を探り、21世紀医療フォーラムに関わる方々と共に、広報や啓発活動に取り組んで行きたいと考えています。

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