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製薬企業のあるべき姿と医療分野の成長戦略

2010/02/22
バイエル薬品会長 栄木憲和氏

趣味のコレクションと筆マメで、
MRのビジネスチャンス拡大を支援する


――大変筆マメで、コレクションした万年筆を用途に応じて使い分け、取引先への礼状や、部下の誕生日カードにメッセージを添えているとうかがいました。

栄木 工場長のときは、200名全員が子供のようなもので、楽しくて仕方がなかった。社員本人はもちろん、家族構成から名前まで覚えますからね。誕生日カードくらい、造作ない。 社長になってからも部下への誕生日カードは欠かしませんでした。それは、今の社長が受け継いでくれています。

今でも、大学の先生へのお礼状は必ず書きます。それは投函せず、MRに託すことで、MRがもう1回、忙しい先生にほんの少しでもお目にかかりやすくしたいがためでもあります。MRとしても、「本日は、会長からの手紙を預かってきております」と言えば、コンタクトの機会が増えるわけですから、頼りになると言われます。

実は、私自身、工場長の時に「お前、このしんどいときに、ようそこまでやってくれてありがとう」という手紙に涙した経験があるので、手紙のありがたみが身にしみています。社員からのメールにも必ず返信しますから、決してアナログ派というわけではないのですが、こういう時代だからこそ、やはり手書きの手紙は貴重なのでしょう。

――新入社員からも、いつもニコニコしていて、気さくで話しやすいと評判のようですが、怒ることはないのですか。

栄木 めったに怒らないかもしれませんね。約束を守らないとか、裏切ったとか、人のせいにしたというような場合に怒ったことはありますが、失敗したからといって怒ることは絶対にしません。なぜなら、失敗して、いちばん「しまった!」と思っているのは、本人ですから。病院への納入禁止、訪問禁止で売上がゼロになったMRに対しても、私たち以上に本人がしんどいはずですから、そういうときは逆に助けようと思って一生懸命フォローします。

治験活性化、ドラッグラグ解消が、
患者のベネフィットを生む


――「医薬品産業の成長戦略」や「ドラッグラグの克服」などをテーマに、医薬品業界全体の視野に立って問題提起や広報活動に取り組んでいらっしゃいますが、治験の意義、創薬のメリットについて教えてください。

栄木 アンメット・メディカルニーズといいますが、治療法のない疾病や健康の維持に貢献ができるということが創薬の最大のメリットといえます。例えば、かつて結核は死の病でしたが、抗生物質、抗結核薬ができたおかげで克服できました。胃潰瘍も、以前は手術でしか治せなかったものが、今は薬で治ります。がんについても、だんだんそういう動きが出てきています。今まで治らなかった病気が治る、QOLを高める、その可能性を与えるのが治験です。治験がないと、創薬ができません。

――日本では、ドラッグラグが大きな問題になっています。

栄木 ドラッグラグによって、基本的創薬力、新たな薬物療法の提案ができないことは、患者にとって不利益です。薬剤のある国の人が受けられる疾病の治療が、ドラッグラグのせいで、日本では受けられないといったことが起きるわけですから。

――ドラッグラグを解消する具体策として栄木さんは、「教育」「IT」「英語」の3要素を挙げられています。これは、ドラッグラグのみならず、今の医療問題のソリューションのキーワードでもあるように思いますが。

栄木 創薬、臨床研究、治験において、東アジアでは、韓国と台湾が成功しています。日本が韓国に学ぶべきは、「どのようにして国家主導で治験を世界から誘致していこうという努力をしたか」ということです。かつて、「韓国には、学ぶものはない」と言った人がいますが、それは実にarrogant(横柄、尊大な)というか、おかしいことです。

大前研一著『「知の衰退」からいかに脱出するか?』の中に、「気がつけば、アジア人のなかで日本人だけが英語をしゃべれない国民になってしまった」と書いてあります。大前さんはまた、国民総背番号制を絶対にやるべきだとも書いていますが、まったく同感です。

「英語」「IT」「金融」は、アジア諸国の中の大学を卒業した人にとって、“読み書きソロバン”に相当するといわれます。日本の大学生に関しては、ITはなんとかなっても、英語も金融も全く知らないと言っていいくらい、読み書きソロバンの基本ができていません。「英語で治験のプロトコールが書けない」「英語が読めない」「英語でコミュニケーションできない」・・・・。これでは、グローバル治験、医薬品製造・販売のグローバル化進展についていけません。

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