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製薬企業のあるべき姿と医療分野の成長戦略

2010/02/22
バイエル薬品会長 栄木憲和氏

――いま、とても勢いのあるバイエル薬品でも困難に直面していた時期があったそうですが。

栄木 2001年に全世界で数千億円の売り上げがあった高脂血症治療薬「バイコール」の自主回収を行いました。そして、その翌年には遺伝子組換え型血液凝固因子製剤の世界的な供給不足が起こり、このダブルパンチで会社はかつてない困難な状況に遭遇したわけですが、そのような大変な時期に私は思ってもみなかった社長に就任することになります。

――敗戦処理の社長という役回りですが、最初は固辞されたと聞いています。

栄木 いや、全く、敗戦処理という感覚ではありませんでした。エンジニアとして、ずっと工場で開発に携わってきたので、マーケットも知らなければ、モノを売った経験もない。だから、絶対に無理だというのが固辞の理由です。でも、忘れもしない、私の誕生日に打診されて2ヵ月半後、「(会社を)辞めるか、(社長を)やるか、どっちかだ」と迫られて、しようがなかった。辞めて、どこか他に行く当てもありませんでしたから。(笑)

後に酒を酌み交わしながら、社長に指名してくれたプリシュケに理由を聞いたところ、「こういう大変な時には、日本の会社だから、真にコミュニケーションを取れる日本人がいい」と決断したとのことで、バイエル薬品の歴史上、初の日本人社長となりました。滋賀工場長をしていた私のことなど、本社の誰も知らなかったと思いますが、「工場もマーケットも人の心をつかむのは同じく大切なこと、人の心をつかんでビジネスを正常に戻してほしい。お前に薬をどれだけ売り上げてほしいなんて思っていない」と、プリシュケは言いました。

“小粒で光り輝く真珠工場”と評価された改善努力


――就任直後、社長としては、リストラもせざるを得ませんでしたが。

栄木 研究開発部門と工場部門がリストラの第一対象で、まず、研究所を閉鎖しました。全世界から集めた優秀な研究者ばかりが、120名ほど在職していました。その人たちの処遇に関しては、私も必死になって再就職先を探しました。

工場についても、アメリカの工場か日本の工場のどちらかを閉鎖することになっていました。従業員数1800人のアメリカ工場に対して、日本は200人。私は、日本のほうが潰されるだろうと思いましたが、とにかく競争して勝った。

勝因は、改善意欲が高いことでした。改善は、1人1人が品質のトップランナーになるべく、私が提案したことですが、1人年間5件の改善策を出す。それで、年間1億から8000万円の削減になっていました。 プリシュケが、「その工場は、真珠みたいだ。小さいけれども光り輝いている」と評価してくれたおかげで生き残れました。

当時、滋賀工場のオペレーションコストは40億円でしたが、10億円削減することが存続の条件でした。そこで、何をやったかというと、正社員200人のうち90人にパート社員になってもらいたいと募った。年収は半減しますが、一時金として年収の2.5~3年分のインセンティブをつけました。それでも、正社員の方がいいに決まっています。ところが、地元で働きたいという社員たちが、工場がなくなったら困るからといって、定員を上回る100人が応募してくれました。これには、涙が出るほどうれしかった。

奇策など何もありません、とにかく、誠意をもって徹底的に話し合いました。1週間くらい、ほぼ徹夜に次ぐ徹夜でした。とことん話し合い、聴いてあげることが、いかに大事か。コミュニケーションをとるには、それしかないですね。

私は、いつも「栄木さん、NOと言ってください。そうしないと、栄木さんパンクしますよ」と言われますが、管理職はNOと言ったら終わりだと思っています。だから、絶対に、NOと言わないことにしています。上司がNOと言ったら、部下は、どこにも持っていきようがないですから。もう一つありがたかったのは、私と同じ歳の管理職の人たちが5名、潔くボランティアで辞めますと言ってくれたこと。55歳で再就職が難しい年齢でしたが、完全リタイアの道を選んだ1人を除き、小さい会社ですが再就職もでき、めでたく10億円削減プランを達成しました。

この辛さ、みんなで同じ釜のメシを食った辛さを乗り越えてきたというアイデンティティがある。今、その辛さを経験した人たちが、支店長とか部長クラスになっています。だから、よく私は、「悠友会」で先輩がたにも、そういう土壌の上に成り立っている会社だということ、そういうカルチャーを持っている会社だということ、我々はそれを引き継いでいく役目を担っているという話をします。

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