――その際、日本の国民皆保険という制度は、望ましいものだと考えてよいのでしょうか。
柴田 日本でも、最近は保険料が払えなくて、無保険になる人が増えて問題になっているようですね。とはいっても、統計的に考えると、ほぼ皆保険に近い。これは世界的に見ても、良い制度だと思います。ただ、皆保険という状態が長く続くと、人間の行動パターンが非経済的になるという要素があるので、そこは警戒していくべきでしょうね。
米国でも、ゼネラル・モーターズ(GM)は、従業員の退職後の医療費負担が膨大で、経営危機の大きな原因になりました。非常に恵まれた医療保険なので、全ての人が、最新、最高の技術の医療を要求してしまう。おかげで、GMの車1台当たり500~1000ドルの医療費を、購入者が負担する計算になるといわれていました。日本の皆保険制度でも、医療への要求と負担のバランスをうまく調整していかないと、GMと同じような問題が出てくるかも知れません。
――問題になった後期高齢者医療制度も、そもそもは高齢者に応分の負担を求めようという考え方から出てきたものでした。
柴田 あれは説明不足という面もありますし、施策の順番の問題もある。例えば、最初に低所得者向けのセーフティネットの制度を作り、さらに高額所得者への負担増を求める。その上で、余裕のある高齢者、中間層にも応分の負担を求めるという順番だったら、納得は得やすかったのではないでしょうか。

――いわゆる混合診療の問題はいかがでしょう。通常の検査等は保険でカバーし、高度な医療の部分だけを自費にする制度です。
柴田 悪用、乱用になってはいけないと思いますが、医師の適正な判断として、混合診療を薦めるという場合もあり得るでしょうね。
――がんの未承認薬とか、重粒子線などの放射線治療の場合には、十分にあり得ると思いますが、いかがでしょう。
柴田 そういう場合は、認めてもいいのではないでしょうか。医師のインセンティブの面から見ても、患者が高度な医療を受ける可能性の芽を摘むべきではありません。ちなみに英国では、ものすごく難しい手術、最新の技術を使った手術というのは、公的な病院でやるのが普通です。そのため、最先端の医療に従事したいという向上心が、医師が公的な病院に職を求めるインセンティブになっています。