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超高齢社会の医療とシステム(1)
心豊かに生きられる社会の実現と、価値観の変容の必要性

2009/08/17
東京大学高齢社会総合研究機構教授 辻 哲夫氏

図1 主な国々の高齢化率(2050年まで)
(東京大学高齢社会総合研究機構設立構想より)

─アジア諸国も急速に高齢化が進んでいますね。

辻:土地に帰属して、土地を耕すことが家族の中で引き継がれていく社会では3世代同居は当たり前でしたが、市場経済が発展して土地に帰属しないサラリーマンが増加すれば都市化が進行します。同時に家族を労働力として必要としなくなるので3世代が同居する必然性もなくなります。また、経済発展により長寿化が進む一方において、少子化が起こます。そして少子化は高齢化を加速させます。このような日本が辿っている道を、今、韓国や中国をはじめとする多くのアジア諸国も踏襲しつつあります。

 市場経済が発展して、経済的に豊かになった国は、都市化、少子化、高齢化が必ず起こります。その際、問題の1つは、高齢社会における高齢者の孤立であり、それを支える公的な仕組みをどうつくっていくかです。もう1つは少子化対策です。しかし、高齢者対策も少子化対策も、その歪みに対応するというような消極的な姿勢では思うような成果は得られません。少子化対策でいえば、ワークライフバランスを前提とした仕事と、子育てがともに十分にできるようなシステムをつくって、安心して仕事と子育てができる社会をつくらなければなりません。高齢者対策においても、積極的に1人ひとりが元気で安心して暮らせる社会を実現するところまでやり抜く覚悟が求められるのです。

超高齢社会に求められる価値観の変容

─その覚悟がないと、長寿という、私たちが勝ち取った甘い果実が、苦い果実になってしまうと・・・

辻:1人ひとりが価値観を変えていく必要があります。高齢者は弱者だから保護しなければいけないという考え方から抜け出すことが大切です。

 超高齢社会のキーワードは「元気」だと考えています。しかし「元気」とはどのような状態を言うのでしょうか。75歳を過ぎれば、一般的傾向として身体機能が低下します。若い頃のようには動けなくなる。どの程度、身体機能が低下するかは個人によりますが、高齢になれば多かれ少なかれ身体機能は低下します。

 身体機能の低下の度合いは男性と女性で異なり、私の同僚の秋山教授の調査によると男性の場合、約10%の方は60歳台の機能を維持しながら80代を迎え、約70%が70歳を過ぎた頃よりゆるやかに身体機能を低下させ、約20%が60歳台頃から身体機能を急速に低下させるといわれています。一方、女性の場合は、60歳代の機能と比較して、90%の方が70歳前後からゆるやかに身体機能を低下させ、約10%弱が60歳代から急速に身体機能を低下させています。

 このような高齢者の身体的な特徴を考慮しながら、「長生きしてよかった」といえる社会を実現しなければ、経済成長の結果もたらされた長寿という果実を享受することはできません。

─長生きしてよかった、といえる社会とはどのようなものだとお考えですか。

辻:サラリーマンが定年退職したら余生という言葉があるように社会での役割を終えたと考えられた時期がありました。これほどの長寿社会を迎える以前の話です。ところが、これからは定年後の長い人生を見すえて、新たな社会での役割を見出すことが必要です。例えば、仲間同士で新たに会社を興したり、地域社会で経験を生かした役割を見つけることです。すでに、そのような生き方を実践している「元気な」お年寄りが存在するわけですから、その萌芽を大きく育てることが必要でしょう。

 地域社会で個人が自分らしく、それぞれの役割を担って生き生きと生活するためには、高齢者が地域社会で一定の役割を担えるような仕組みをつくらなければなりません。企業活動も何らかの形で経験豊かな高齢者を登用する道を探るべきです。地域社会も高齢者の身体機能に配慮した環境を整備する必要があります。さらに、活動的な高齢者は消費生活も活発に行なうので、高齢者向けの商品を開発、提供しなければならないでしょう。

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