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医療のグローバル化と、重みを増す医療情報。さまざまな工夫で、日本の医療を世界水準に

2009/08/01
アイ・エム・エス・ジャパン代表取締役社長 佐伯達之氏

日本発の「安全性情報」提供事業が展開

―お父様の時代には情報源は本だった。現在は、もっといろいろなチャネルから情報が得られます。

佐伯 チャネルを増やすには、環境が大事ですね。小さな診療所の医師よりは、大きな病院の医師が、薬や治療法に関する最新情報に触れる機会は多いでしょう。ただ、情報を得るために何より大事なのは、医師自身の心がけだと思います。

例えば、“経済的に裕福になりたい”というモチベーションだけで医師になった人は、収入を上げることを第一目標に置くなど、悪い方向に向かってしまうこともあります。医師は人の命を扱う特別な職業だという使命感、自覚があって初めて、真剣に幅広く情報を集め、患者にわかりやすく伝えようという意欲が湧いてくるのだと思います。

―情報収集の環境の問題は、現在はインターネットを活用することで、ある程度は克服できると思いますが。

佐伯 IMSジャパンがいま取り組んでいる医薬品の「安全性情報」の提供も、そうしたインフラ整備の一環だと思っています。2007年6月からスタートした「安心処方 infobox」は、医師、薬剤師の先生が無料でアクセスできる安全性情報の検索サイトです。いま日本で市販されているすべての薬の副作用情報を、瞬時に検索できます。当社が全国の医師を対象に行った実態調査によると、医師のニーズが非常に高い情報として、副作用が発現した患者の事例(根拠症例)があげられ、こういう情報も一部見られるようになっています。最近になって医師、薬剤師の利用者がどんどん増えていて、現在では約2万人の先生が日常診療で使っています。

―それだけ網羅的なサイトを、無料で運用するのはたいへんですね。

佐伯 情報のメンテナンスにたいへんな手間がかかるので、いまのところ、毎年、赤字です。この「安全性情報」の提供支援事業は、実はIMSジャパンがオリジナルで作ったものです。IMSの米国本社からは、「赤字を何とかしろ」と言われ続けてきましたが、私は「この事業は絶対にやめない。成功させてみせる」と言い返し続けてきました。

今年に入って、私が予測していた通り、追い風が吹いてきました。くすりの安全性情報をもっと効果的に提供すべきという動きがあります。そのひとつがDSUR(Development Safety Update Report:くすりの開発段階で確認された安全性の特徴を毎年、定期的にレビューして規制当局に報告を行う制度)の導入です。2010年には日米欧で導入されるものと思われます。このDSURが導入されれば、日米欧の製薬会社は、自分たちが開発している薬の副作用情報を定期的に分析、評価して報告することが義務付けられることになります。開発初期段階からグローバルで安全性の特徴を評価し、共有することで、患者さんだけでなく医療従事者や製薬会社のリスクを軽減することになります。「くすりの副作用を知りたい」という社会の要望にどれだけきめ細かく対応できるかがこれからの製薬企業のビジネスには非常に重要です。「安心処方 infobox」は、そうした動きを先取りした画期的なサービスとして、世界中で評価されるだろうと思います。

―将来的に、この事業を黒字化するためのビジネスモデルについてはいかがですか。

佐伯 医師、薬剤師などの医療従事者には、無料で情報を提供するというのが大原則ですから、その意義を製薬会社に理解していただき、先生のニーズの高い情報を製薬会社から提供するチャネルとして活用してもらいたいと思っています。

これまで、薬の副作用情報というのは、薬の効果の説明よりは優先順位が低い位置づけになりがちな傾向だったように感じます。しかし今は、医師の間にも、薬剤師の間にも、ひいては患者の間にも、正しい副作用情報を知りたいというニーズが高まっています。その時に、どういう情報インフラが必要になるか? もちろん、副作用情報は公開はされているので、医師自身が調べることは可能です。ただ、非常に煩雑だし、時間がかかる。それをワンストップで、瞬時に検索できるようにしたのが「安心処方 infobox」なのです。

しかも、医師が本当に知りたいのは、副作用の一般論ではありません。副作用はこういう推移で発現する等、個別の症例情報なんです。「安心処方 infobox」では、各製薬会社様のご協力を得て、そうした根拠症例情報が集まってきています。この症例情報が充実してくれば、医療従事者のユーザービリティーを高め、評価いただけるようになると思います。

医療改革にはグローバルな視点が不可欠

―「安全性情報」以外の情報提供も考えていますか。

佐伯 当社が情報を集め、情報のメンテナンスをする。製薬会社がスポンサーしてくれて、医療者が無料で利用するというビジネスモデルがうまく回るようになれば、いろいろな情報提供が考えられます。

例えば、医師が特に知りたがっている情報の1つに研究文献があります。世界中で発表されている研究文献を、できるだけ速く、正しい日本語にして提供する。ある分野の最新の文献を調べたいと思った時に、パソコンで簡単にアクセスできて、しかも日本語で論文を検索し、参照できるようになれば、医師にとっては役立つはずです。

当社にはLifeLinkTM と言う製品があるのですが、これには症例の追跡情報がデータ化されています。どういう症例の時に、どういう薬を使って、どういう処置をしたら、こうなったという症例情報は、診断や治療の最適化や薬の開発上価値があると考えています。

こうしたデータベースと検索サービスを実現するにはたいへんなお金がかかりますし、いますぐできるとは思いませんけれども、実現に向けて、少しずつでも努力して、進めていきたいと思っています。こういう情報提供こそ、われわれIMSジャパンの真価が発揮できる分野だと考えるからです。

―「21世紀医療フォーラム」に参加されたのも、そうした長期的な視点があるからですね。

佐伯 その通りです。「21世紀医療フォーラム」に期待しているのは、継続的な情報発信です。医療制度改革の提言や、診療の体制や手法を変えるといった情報発信をしていく場合、グローバルな情報をベースにした判断がどうしても必要だと思います。

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