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「赤ひげと天才」。医療界には両方の人材が必要

2009/07/06
ノバルティスファーマ株式会社代表取締役社長 三谷宏幸氏

自分自身をとことんまで突き詰める経験を

―「かかりつけ医」は、“いま病気で困っている人を助けたい”という気持ちが強い人でないと困りますね。ところが、いまは偏差値が上の学生から順番に医学部に入ってくるので、“医師になって病気の人を助けたい”という使命感が薄くなっているとも指摘されています。

三谷 確かに、成績がそれほど抜群ではなくても、人助けをしたいという使命感が強い人が、入れる医学部であって欲しいですね。ただし、医療の世界にも非常に優秀な人間というのは必要です。先ほどの医工連携の話にも関連しますが、CTとかMRIとか、いまの最先端の医療機器を理解するためには、医師でありながら、数学も物理もよくわかる人材が必要になっています。そういう非常にハイエンドな資質を求められる領域がありますから、超優秀な人間はある程度は、医療界にいてくれないと困ります。そうでないと、医療技術というのは、向上していかない。だから、偏差値が高い学生が医学部を選ぶというのも、あながち否定できないと思うんです。

―基礎研究、臨床研究に行く人材も必要ですから、やはり天才に近い連中もいないといけない。

三谷 そういう人たちには、飛びきり優秀な頭脳で、いろんなものをすばやく理解し、未来を見通してくれることで医療に貢献してもらえばいい。一方で、赤ひげというか、医師としての使命感、奉仕精神にあふれた人材がいて、病気の人を助けていく。そういうバランスが大事で、みんなが同じサイズの人材では困ると思います。

―Good Doctor NETでは近く、若い医学生・研修医向けのサイト、Good Doctor NET Jr..をスタートする予定です。最後に、彼らへのメッセージを。

三谷 少し前に、私は母校・東大の医学部、薬学部の学生向けに、講義をしに行ったことがあります。その講義に出ていた医学部の6年生の1人が「今度、投資銀行に就職が決まりました」と言うわけですよ。私は一瞬、「何を考えているんだ」と思いましたね。だいたい、彼を医師にするために、国がいくらお金を使ってるのか知ってるのかと。

―1人の医学生を一人前の医師にするためには、卒業までの6年間に私立医大で6000~7000万円、国立大医学部で1億円かかると言われています。その金額マイナス授業料が、税金で賄われていることになります。

三谷 そういうお金の面もあるし、何よりもったいないのは、彼が医療の世界で自分の才能を突き詰める機会を放棄していることです。医療の分野で、ある程度、経験を積んだ後で、思うことがあれば、別の世界に転身するのも一つの選択だと思います。しかし、彼の場合、医師としての仕事を何も経験しないまま、まったく別の道に進もうとしていた。その当時、投資銀行への就職は流行だったし、給与水準も高いので、医師の仕事より魅力的に見えたのかもしれない。でも私は賛成しないとはっきり彼に言いました。私は、あちこち転職してきている人間だから、そんなことを言われるとは思っていなかったらしくて、彼は驚いていましたけれども。

―彼は医学部6年を終えて、国試にも通って、それから投資銀行に。

三谷 そういう話でしたね。私の言いたいのは、せっかく一度は医療を志したのだから、その世界の中で、自分自身をとことんまで突き詰めてみて欲しいということなんです。“雑巾掛け”というか、現場の下働きをやって初めて、見えてくるものだってあるわけですよ。

私自身、最初に入った川崎製鉄で、若い頃に“雑巾掛け”をさせてもらった経験が、その後、どんなに役に立ったかわからない。別の分野に転身した後も、非常に大きな財産になっています。ましてや医療の世界は、患者さんの命を救ったり、生活の質を左右するような重要な仕事です。もしも勉強したいならば、世界最先端の技術を追究していける世界でもあります。非常に大きな、大事な使命を負って、社会から期待されている仕事でもありますね。若い医学生、研修医の方々には、初心を忘れず、大きな自信を持って、医療の世界を突き進んで欲しいと思います。

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