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専門医には研究の実績を義務づけることが必要。医師をランク付けして経済的なインセンティブを

2009/06/25
内閣府総合科学技術会議議員 本庶 佑 氏

インフォームド・コンセントが当たり前という時代になり、患者に丁寧に説明しようとすれば、それだけ診療には時間がかかります。人手が少ない上に、1人ひとりの患者の診療に時間がかかりますから、研究の時間がどんどん少なくなっているのです。臨床家が、それほど忙しくしていたら、現場で「なぜ?」を考える時間がなくなりますから、良き研究者にもなれません。ひいては良き臨床家にもなれるはずがありません。その影響はやがて、患者にも跳ね返ってきます。研究をないがしろにしていると、将来、患者が受けられる医療レベルも下がってしまいますからね。

大学3年生の時から基礎研究者を志す

― 基礎研究については、いかがでしょう。先生の若い頃に比べれば、研究の環境は現在の方が整っているのではないかと思いますが。

本庶 我々の時代に、基礎研究をやろうとしたら、現在よりはるかにひどい貧乏を覚悟しなければなりませんでした。それでも、基礎研究をやる人は、昔のほうが多かった。ですから、基礎研究に取り組む医師が減ったのは、経済的な理由だけではないと思うのです。では、なぜ基礎研究を目指す人が少ないのか。これについては、私も正直に言って、はっきりした答えは出せません。ですから確信はないのですけれども、あえて推測を言うと、いまの若い人は、自分の人生に対する価値観が曖昧なのではないでしょうか。 

私は、人生とは結局、自己満足だと思うのです。どんな生き方をしても、自分が満足し、納得できれば、よい人生だと言っていい。周りの人がどんな生き方をしていても、自分にはまた別の価値観があり、自己満足の仕方も違うから、あくまで人とは違う生き方をする。そういう個々人の価値観がはっきりしていないために、みんなが行くから、そっちに行くという判断になるのではないか。親がこう言うから、こうするとかね。

― 偏差値が高いから、医学部に行く。人気があるから、この研修指定病院を選ぶといった判断ですね。実際、母親がここへ行けと言ったから、聖路加病院や虎の門病院を研修の場に選んだという若い医師が、結構いるようです。

本庶 親のアドバイスもあるでしょうが、周りの人が行く方に、何となく行くという選択になってしまうわけですね。やはり自分自身の中に明確な価値観がないために、チャレンジングな選択ができなくなっているのではないでしょうか。

― 本庶先生の場合は、どういう経緯で基礎研究の道を選ばれたのでしょうか。

本庶 私は、京都大学の2年生の時に、早石修先生の医化学教室に入れてもらうことができました。早石先生はいまもご健在で、大阪バイオサイエンス研究所の名誉所長をされていますが、当時は米国から帰国されて、まだ間がない頃でした。私は縁あって先生の教室で、研究の真似事のようなことをしている間に、それが非常に楽しくなってきました。

そして、大学3年生の時には、もう基礎研究者としてやって行こうと決めていました。大学院の博士課程では、米国のロックフェラー大学でタンパク合成の仕組みを研究されて帰国されたばかりの西塚泰美先生(元神戸大学学長)の指導を受けました。西塚先生の下で、タンパク合成に関する生化学の研究を進め、やがて哺乳類のDNAを対象にした分子生物学の研究を希望するようになっていきました。

当時はまだ、哺乳類どころか、脊椎動物のDNA研究も夢物語のような時代でしたけれども、希望の研究の場を探し、カエルのリボソーム遺伝子を研究していたドナルド・ブラウン博士の下で研究をするために、米国のカーネギー研究所に行ったのです。

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