ドイツ流に開業医の数をしぼるのも1つの解決策
――マスコミの報道も、患者側の医療水準への錯覚を、むやみに煽っているところがありますね。
森山 報道では、「人の命を救いました。病気が治りました」というところに常にフォーカスが当たる。その結果、「救急車がそこにあるなら、必ず1時間30~40分以内に、高度な医療を提供できる病院に連れていけなければダメだ」という話になってしまう。
救急の報道ではいつも「たらい回し」という嫌な表現が使われます。あれは病院側からすると、他の重篤な患者のケアをするため「受け入れ不能」だったわけです。夜中でもいつでも、何人でも救急患者を受け入れろと言われたら、愛育病院のように、指定を返上しなければならなくなります。
例えば英国では、CT検査を待つのに1カ月、MR検査なら2カ月待ちでも仕方がないと、国民は思っています。日本では、そんな状況があったら、たいへんな病院バッシングが起きますよ。
当院では、だいぶ前からCTは診療後1~2時間以内に、撮影できますが、それに慣れてしまった患者は、他の病院に行くと、苦情を言うんです。「この病院は、なぜCTがその日に撮れないのか」とね。このように、患者の側の満足度のハードルは、最近、限りなく高くなっています。
――「患者満足度と医療側の満足度が両立しないと、良い医療提供は長続きしない」ということも先生の持論です。せめて診療科別の偏在をコントロールするために、定員制を導入したらという話がありますが。
森山 先ほど話に出た日本専門医制評価・認定機構でも、定員制を考えようとしているようですが、いざ実施となると非常に難しい問題が出てきます。例えば、各学会に対して、どれくらい専門医のニーズがあるのか調査しても、各学会は最小の数は出しませんよね。最大の数を出してくる。そうすると、収拾がつかなくなるんですよ。
それとは別に、ここ10年間の各診療科の医師数の平均を見て判断するという方法があります。例えば耳鼻咽喉科だったら、アクティブメンバーがずっと8700人くらいで推移していますから、定員を8700人にしたとしましょう。その定員を満たす程度に、医師を供給することにしたとしても、勤務医と開業医のバランスの問題が残ってしまいます。
いくら診療科の医師を適当な数だけ供給したとしても、それがどんどん開業医に流れていったら、勤務医が疲弊してしまいますから、高度な医療の提供は出来なくなってしまいます。