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卒後臨床教育のあり方を問う(1)
医師になるということ。専門を選ぶということ

2009/03/28
独立行政法人国立病院機構・京都医療センター院長 藤井信吾 氏

─多忙を極めた“修行時代”でしたね。

藤井 午前2時、4時、6時に分娩を取り上げ、そして外来に行きます。外来、手術中を問わず分娩はありますから、その都度、分娩室に入りました。新生児、未熟児の管理、交換輸血などすべて自分で行いました。卒業後3年目の医師の知識と経験では本来無理なほどに多忙な病院でしたが、知識や経験の不足していることを自覚していたので、すべての患者さんの所に自分の身体を運んでその不足部分を補いました。病院スタッフは協力的でしたが、4年間働いて最後は体調を崩してしまいました。

─先生が医師になってから40年後の今日でも、産婦人科医は厳しい環境で働かざるをえない状況にあります。

藤井 分娩数は日本全体で減少しているのですが、超音波などの新しい診察機器が導入され、また患者さんへの説明義務も増えましたので、私が一人医長でやっていた時代とくらべて随分と診察に時間がかかるようになってきました。産婦人科医一人一人の労働量が以前よりは急激に増加してきたのです。そして、少ない産婦人科医の病院がほとんどですから、若い医師も仕事に追われて教育を受けにくい体制になっているのです。極端に言いますと半世紀前から今日まで若い産婦人科医を育て上げる教育体制が日本にはなかったと言わざるを得ません。自己学習が主体であり、日本の小人数態勢の産婦人科診療では、ある程度の診療はできても、きわめて質の高い診療はできない環境なのです。

 40年たった今産婦人科医師を集約した病院をつくろうとしていますが、大学も、病院も人手不足で理想にはほど遠い状況だと思います。大学医学部の使命は教育、研究、臨床ですが、大学も人手不足で教育に十分なエネルギーが割けません。ですから産婦人科教育は旧態依然としています。

 また、国は産婦人科医の待遇改善で産婦人科医不足に対応しようとしていますが、そのことである程度の改善が見込めるかもしれませんが、教育のない臨床現場に若い医師は集まらないのだという原理原則をもっと考えるべきでしょう。

 新臨床研修制度は、新しい卒後臨床医学教育を目指して実施されましたが、2年間の卒後研修が義務づけられた結果、2年間で16000人以上の人たちが、専門性を持たない医師になり、そして大学に所属しない医師が増えました。従来、これらの人たちは、すでに述べたように医局から地域に派遣されて地域医療を支えてきたのですから、地域の医師不足が深刻になるのは当然だったのです。そして、最も大きな問題は、日本の医学教育において臨床医学教育ができる教育者を育ててこなかったことなのです。(2回目に続く)

※編集部注:
 厚労省が2年に1度行う「医師・歯科医師・薬剤師調査」によると、1984年から2004年の間に、医師総数は17万3452人から25万6668人に増えたが、産婦人科医は12,181人から10,555人に減少した。また産科と婦人科別の医師数をみると、お産を扱わない医師が増加し、産科医師の数が減っている。

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