(構成:医療コラムニスト 21世紀医療フォーラム取材班編集長 桶谷仁志)
「医師不足」に対応するため、2009年度から医学部の定員が大幅に増員される。この施策は、果たして有効なのだろうか。日本外科学会の会長時代から、外科の「医師不足」に警鐘を鳴らし続けてきた門田守人氏(大阪大学副学長)に、現在の外科医が置かれた状況を踏まえながら、医学部定員増の影響と「医師不足」の根本的な打開策について聞いた。
10年間は効果なし。現場医師の負担は増える
――政府は昨年から医学部の定員増を打ち出し、今年度の医学部入試では全体で693人の定員増が実施されます。この施策については、どう評価されますか。
門田 厚労省はこれまで長い間、医師は不足していない、単に診療科や地域で偏在しているだけだと言い続けてきました。それが今回、従来の主張を捨てて、医学部の定員増を認めることで、問題は解決するかのように言っています。
しかし、たとえ定員を増やしたとしても、即効性はない。これから医学部に入った学生が、1人前の医師として使えるようになるには、最低でも10年はかかる。つまり少なくとも10年間は、医師不足の解決にはつながらないのです。
しかも今後の10年間は、団塊の世代が60代~70代になり、病気になる可能性が一番高い時期です。その肝心な時期に使える医師は増えない上に、その10年間、現場の医師は、増えた分の医師の卵たちも教育しなければならないのです。
ただでさえ長時間労働で疲弊している現場の医師たちの負担が、さらに増えることになります。また、一番問題なのは、医療費は相変わらず抑制する方針が続いていることです。
医療費を抑制し、医師の数だけ増やして、医師の偏在を是正するための根本的な解決策には一切手をつけない。これでは解決どころか、問題をますます複雑にするだけです。