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「医師不足」問題の根底にあるもの
~外科医はゴッドハンドを持っているわけではない。(1)

2009/03/07
門田守人 氏 (大阪大学副学長)

こうした勤務環境は、外科医の世界ではたぶん常識でしょうが、一般社会では非常識です。徹夜明けのトラックドライバーが、翌日も引き続き高速道路を走っているようなものなのですから。

医療事故が発生したら、訴えられても当り前という状態が、平気で慢性的に続いているのです。医療訴訟の数を見ると、2005年(平成17年)度内に、新しい医療訴訟が1032件発生しています。医師の総数を25万人として、医師1000人あたりで計算すると、年間平均約4件の医療訴訟が発生していることになる。中でも、外科は産婦人科(11.5件)に次いで医療訴訟が多く、年間平均9.6件と全体の平均の2.5倍にもなります(図7)。

――医療事故、医療訴訟があると、医療のマイナスの側面として、マスコミでも大きく取り上げられます。一方、手術数の多い病院や、ある専門分野で腕が良いと定評のある医師が、華々しく取り上げられることも多い。そうした両極端のマスコミ報道を見た患者の側の意識も、外科医に過大な要求をするように、変わってきているようですが。

門田 医療事故に関する新聞報道は、1999年頃から急速に増えました。その一方、難しい手術の得意な、いわゆるゴッドバンドの医師が取り上げられて、治療依頼が殺到する現象もある。ただ、新聞などの報道で最も大事なのは、そうした極端な事例ばかりを追うのではなく、国民に対して、標準的な医療の実際を示すことではないでしょうか。

例えば、各臓器のがんの手術での危険性とか、合併症の発生率が何%であるとかを明確に示し、そのデータを基にして問題を冷静に議論するのが「社会の木鐸」とも呼ばれた報道の本来の役割のはずです。

ところが、現状の報道は、患者の医師に対する要求をむやみに高める方向に向かっているように思います。その結果、いわゆるモンスター患者やコンビニ受診が拡大し、医師の側は、防衛医療の意識が高まっています。

――防衛医療とは?

門田 医師が、医療訴訟になることを恐れて、リスクの低い検査・処置・診察を選択してしまうことです。あるいは、リスクの高い患者の診療を忌避してしまう。医師の中にこの防衛医療の意識が高まると、最悪の場合、患者は最善の医療を受けられなくなってしまいます。

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