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「きちんと知りたい妊娠の心得11カ条」 
~妊婦の教育が、産婦人科医の負担軽減につながる

2009/05/30
21世紀医療フォーラム取材班シニアライター 森 裕

妊婦と胎児の安全を守るため、必ずかかりつけ医を持つことが大切(11カ条の(6))

 妊婦検診は保険が効かないので、余計な出費を嫌って、かかりつけ医を持たずに出産ぎりぎりに病院に駆け込む「飛び込み出産」が増えている。病院にとっては、母体や胎児の状態が不明な妊婦の受け入れは、他の妊婦へのリスクも大きいので救急搬送の受け入れを断る理由にもなる。

 妊婦検診は全部で14回ある。妊娠に異常がある場合には、早期に発見して適切な処置をするため、妊婦と胎児の双方のチェックが欠かせない。緊急時には、妊娠週数と胎児の推定体重などのデータが必須となる。妊婦と胎児の身を守るため、早くからかかりつけ医を持って妊婦検診を受けておくことが大切だ。

 自治体によって異なるが、妊婦検診の受診率を上げるため、これまでも5回の補助券や2回の無料券を配布して公的補助を行ってきた。今年4月からは、公費負担が拡充されて14回の無料券あるいは補助券が配布されるようになった。3月までに受けた分も申請すると、検診料が戻ってくる所もあるので、市町村の担当窓口に問い合わせるとよいだろう。

表3 「周産期医療崩壊の実態」 (浜松医科大学学長・寺尾俊彦氏講演スライドより 一部改変)

産婦人科の「今そこにある危機」

 産婦人科は、医療崩壊がもっとも深刻な診療科だといわれている(表3)。妊婦側から見れば、分娩施設が減って出産する場所の無い「お産難民」が発生。医療側では、人手不足、過重労働、訴訟圧力など簡単には解決しない問題が山積している。

 「産婦人科というのは、お産や妊娠中のトラブルがあるので、365日24時間体制をとっている病院以外診ることができません。すると、人手不足でも対応せざるを得ず、ベテランの先生でも、家庭を顧みずに月10~20回の当直や夜間の呼び出しで疲弊しきっています。

 医局の先輩で何人も鬱病でやめた人もいるし、やる気があって頑張っていた先生が燃え尽きて小さなクリニックに行ってしまったという例もあります。人が減るともっと少ない人数で診療を支えなければならないので、悪循環です」と宋氏は危機感をつのらせる。

 もはや、問題解決には政治・行政といった大きな力が必要だが、現場の地道な努力も不可欠だ。宋氏が始めた取り組みは小さな一歩かもしれないが、それが大きな飛躍につながることを期待したい。

*注1.羊水塞栓症
 羊水が母親の血流に入ることがまれにあり、羊水は肺に到達して肺の動脈を収縮させる。分娩中や分娩直後に、突然、急激な血圧低下や呼吸・循環状態が悪化してショック状態となる。死亡率は60〜80%。頻度は8,000 〜30,000件の分娩に1回とごくまれな疾患。

*注2. 常位胎盤早期剥離
 子宮壁の正常な位置に付着している胎盤が、妊娠後半期や分娩中に、胎児が生まれる前に子宮壁から部分的または完全に剥離する疾患。胎児への酸素と栄養の供給が突然絶たれるので、広範囲の剥離は胎児死亡となる。母体がDIC(播種性血管内血液凝固)という状態になると、血が止まらなくなって、出血のため母体の生命にも危険が及ぶ。母体死亡率は4~10%、胎児死亡率は30~50%、頻度は全妊娠の0.4〜1.3%程度といわれている。直ちに高度医療施設へ搬送すべき、緊急を要する疾患。

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リポート 医療の現場から 新着一覧

  • 地域医療の崩壊は食い止められるか 銚子市立総合病院「休止」と「再開」の狭間で(1)(2009年7月17日)
    ノンフィクションライター 田中幾太郎

     全国各地の自治体病院が苦境に陥っていると言われてから久しい。だが、根本的な解決策はまったく見いだされず、大半の施設は相変わらず、医師不足や累積赤字に悩まされている。昨年10月に診療を停止した銚子市立総合病院も、地元住民の願いに反して、8ヵ月以上が経過した今も再開の目処は立っていない。同病院のケースは多くのメディアでも採り上げられ、世間の注目を集めたが、なぜ、ここまで追い詰められたのか、背景に横たわる複雑な事情が正確に伝わっているとは言い難い。これから3回にわたって、その裏に隠された真相を洗いだしながら、地域医療復興へのヒントを探ってみたい。(続きを読む

  • 「きちんと知りたい妊娠の心得11カ条」 (2009年5月30日)
    21世紀医療フォーラム取材班シニアライター 森 裕

     「セックスをしたら妊娠します」「この男の子供を産むためなら死んでもいい!と思うような男の子供しか妊娠してはいけません」・・・・・・など、タイトルだけ読むと、当たり前のことばかり並べた「きちんと知りたい妊娠の心得11カ条」(表1)が話題を呼んでいる。 書いたのは、川崎医科大学産婦人科非常勤講師・宋美玄氏。今年で産婦人科医になって9年目の女性医師だ。学生時代には、21世紀医療フォーラムの代表世話人である大阪大学副学長・門田守人氏に薫陶を受けたという。(続きを読む

  • 「#8000」、「こどもの救急」を知っていますか?(2)(2009年4月21日)
    取材:21世紀医療フォーラム取材班シニアライター 森 裕

     発熱や下痢、嘔吐・・・子どもが急に具合が悪くなることはよくある。それも夜間や休日、病院がやっていない時に限って起こったりする。今は核家族化が進んでいるから、近くに相談相手になってくれる年寄りもいないし、少子化で、育児の経験が乏しく、母親は不安に駆られる。 あわてて24時間対応の救命救急センターに飛び込むと、すでに同じような子どもを抱えた母親でいっぱいだ。長時間待たされることで、みんな殺気立っている。コンビニ受診*という後ろめたさも脳裏をよぎる・・・。 今回は、そんな母親の悩みを解消してくれる行政側、医療側の取り組みを紹介する。<br />*コンビニ受診:緊急性がなく軽い症状なのに、夜間/休日に病(続きを読む

  • 「#8000」、「こどもの救急」を知っていますか?(1)(2009年4月14日)
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  • 「救急」〜医師不足をどうやって補うか(2)(2009年3月25日)
    帝京大学ちば総合医療センター救急集中治療センター
  • 「救急」〜医師不足をどうやって補うか(1)(2009年3月7日)
    帝京大学ちば総合医療センター救急集中治療センター

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