
表2 重症産科疾患とそれによる死亡(浜松医科大学学長・寺尾俊彦氏講演スライドより)
しかし、難産で急に帝王切開になることや、妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)、妊娠糖尿病という合併症もある。また、高齢化出産の増加で、高血圧や糖尿病、腎臓病などの持病を持った妊婦の割合も増えている。今でも出産にリスクはつきものだ。
「出産で体を張るのは女性です。また、その女性に、妊娠したらお産にはリスクもあるという自覚を持って欲しいものです(11カ条の(2))」と宋氏は力説する。
安全神話が世の中を支配しているので、何かあるとそのショックが容易に医療側への攻撃に変わって、訴訟に発展するケースもある。産婦人科医がこれまで頑張って出産を安全にしたことが、訴訟圧力となって、医療現場から立ち去らせているというのは、皮肉な話だ。
稀な疾患だが、“死亡率の高い疾患”をどうするかが課題
かつて、妊婦の死亡率が一番高いのは、出産後の出血だった(経腟分娩で1,500mL、帝王切開で2,500mLの出血を危機的出血という)。今でも発症数は多いが、輸血が発達しているので、死亡率は0.4%とわずかだ。出産時には出血以外にも母体や胎児の状態が急変することがあるので、緊急事態にも対応できる産院を選ぶことが大切だ。(11カ条の(9))
現在は、発症数は少ないが死亡率が高い疾患や突然発症して経過が急な疾患---脳出血、羊水塞栓症*注1、常位胎盤早期剥離*注2など---が問題になっている (表2)。

図2 「周産期医療体制の充実」(浜松医科大学学長・寺尾俊彦氏講演スライド)
これらの疾患は産婦人科医だけでなく、脳神経外科や他科の医師の応援が欠かせない。最善を尽くしても力が及ばないこともあり、妊婦の死亡率をゼロにできない原因にもなっている。家族にとっては母体・胎児ともに失うことも多いので、救命救急センターと連携した周産期医療体制の充実が叫ばれている(図2)。
東京都は、墨東病院の事件を教訓に、救命救急センターと総合周産期母子医療センターを密接に連携させ、救命処置が必要な重症の妊婦を必ず受け入れる「母体救命対応総合周産期母子医療センター」(いわゆる「スーパー総合周産期センター」)の稼働を3月25日から開始した。
しかし開始早々、指定病院の1つである、日赤医療センターが、労働基準監督署から労働基準法違反で是正勧告を受け、波乱の幕開けとなってしまった。救急医からは、ただでさえ大変な救命救急センターの負担が増えるのではないかとの声も聞かれ、今後の動向が注目される。