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「きちんと知りたい妊娠の心得11カ条」 
~妊婦の教育が、産婦人科医の負担軽減につながる

2009/05/30
21世紀医療フォーラム取材班シニアライター 森 裕

表2 重症産科疾患とそれによる死亡(浜松医科大学学長・寺尾俊彦氏講演スライドより)

 しかし、難産で急に帝王切開になることや、妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)、妊娠糖尿病という合併症もある。また、高齢化出産の増加で、高血圧や糖尿病、腎臓病などの持病を持った妊婦の割合も増えている。今でも出産にリスクはつきものだ。

 「出産で体を張るのは女性です。また、その女性に、妊娠したらお産にはリスクもあるという自覚を持って欲しいものです(11カ条の(2))」と宋氏は力説する。

 安全神話が世の中を支配しているので、何かあるとそのショックが容易に医療側への攻撃に変わって、訴訟に発展するケースもある。産婦人科医がこれまで頑張って出産を安全にしたことが、訴訟圧力となって、医療現場から立ち去らせているというのは、皮肉な話だ。

稀な疾患だが、“死亡率の高い疾患”をどうするかが課題

 かつて、妊婦の死亡率が一番高いのは、出産後の出血だった(経腟分娩で1,500mL、帝王切開で2,500mLの出血を危機的出血という)。今でも発症数は多いが、輸血が発達しているので、死亡率は0.4%とわずかだ。出産時には出血以外にも母体や胎児の状態が急変することがあるので、緊急事態にも対応できる産院を選ぶことが大切だ。(11カ条の(9))

 現在は、発症数は少ないが死亡率が高い疾患や突然発症して経過が急な疾患---脳出血、羊水塞栓症*注1、常位胎盤早期剥離*注2など---が問題になっている (表2)。

図2 「周産期医療体制の充実」(浜松医科大学学長・寺尾俊彦氏講演スライド)

これらの疾患は産婦人科医だけでなく、脳神経外科や他科の医師の応援が欠かせない。最善を尽くしても力が及ばないこともあり、妊婦の死亡率をゼロにできない原因にもなっている。家族にとっては母体・胎児ともに失うことも多いので、救命救急センターと連携した周産期医療体制の充実が叫ばれている(図2)。

 東京都は、墨東病院の事件を教訓に、救命救急センターと総合周産期母子医療センターを密接に連携させ、救命処置が必要な重症の妊婦を必ず受け入れる「母体救命対応総合周産期母子医療センター」(いわゆる「スーパー総合周産期センター」)の稼働を3月25日から開始した。

 しかし開始早々、指定病院の1つである、日赤医療センターが、労働基準監督署から労働基準法違反で是正勧告を受け、波乱の幕開けとなってしまった。救急医からは、ただでさえ大変な救命救急センターの負担が増えるのではないかとの声も聞かれ、今後の動向が注目される。

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リポート 医療の現場から 新着一覧

  • 地域医療の崩壊は食い止められるか 銚子市立総合病院「休止」と「再開」の狭間で(1)(2009年7月17日)
    ノンフィクションライター 田中幾太郎

     全国各地の自治体病院が苦境に陥っていると言われてから久しい。だが、根本的な解決策はまったく見いだされず、大半の施設は相変わらず、医師不足や累積赤字に悩まされている。昨年10月に診療を停止した銚子市立総合病院も、地元住民の願いに反して、8ヵ月以上が経過した今も再開の目処は立っていない。同病院のケースは多くのメディアでも採り上げられ、世間の注目を集めたが、なぜ、ここまで追い詰められたのか、背景に横たわる複雑な事情が正確に伝わっているとは言い難い。これから3回にわたって、その裏に隠された真相を洗いだしながら、地域医療復興へのヒントを探ってみたい。(続きを読む

  • 「きちんと知りたい妊娠の心得11カ条」 (2009年5月30日)
    21世紀医療フォーラム取材班シニアライター 森 裕

     「セックスをしたら妊娠します」「この男の子供を産むためなら死んでもいい!と思うような男の子供しか妊娠してはいけません」・・・・・・など、タイトルだけ読むと、当たり前のことばかり並べた「きちんと知りたい妊娠の心得11カ条」(表1)が話題を呼んでいる。 書いたのは、川崎医科大学産婦人科非常勤講師・宋美玄氏。今年で産婦人科医になって9年目の女性医師だ。学生時代には、21世紀医療フォーラムの代表世話人である大阪大学副学長・門田守人氏に薫陶を受けたという。(続きを読む

  • 「#8000」、「こどもの救急」を知っていますか?(2)(2009年4月21日)
    取材:21世紀医療フォーラム取材班シニアライター 森 裕

     発熱や下痢、嘔吐・・・子どもが急に具合が悪くなることはよくある。それも夜間や休日、病院がやっていない時に限って起こったりする。今は核家族化が進んでいるから、近くに相談相手になってくれる年寄りもいないし、少子化で、育児の経験が乏しく、母親は不安に駆られる。 あわてて24時間対応の救命救急センターに飛び込むと、すでに同じような子どもを抱えた母親でいっぱいだ。長時間待たされることで、みんな殺気立っている。コンビニ受診*という後ろめたさも脳裏をよぎる・・・。 今回は、そんな母親の悩みを解消してくれる行政側、医療側の取り組みを紹介する。<br />*コンビニ受診:緊急性がなく軽い症状なのに、夜間/休日に病(続きを読む

  • 「#8000」、「こどもの救急」を知っていますか?(1)(2009年4月14日)
    取材:21世紀医療フォーラム取材班シニアライター 森 裕
  • 「救急」〜医師不足をどうやって補うか(2)(2009年3月25日)
    帝京大学ちば総合医療センター救急集中治療センター
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    帝京大学ちば総合医療センター救急集中治療センター

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