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「救急」~医師不足をどうやって補うか(1)
救急医療現場の取り組みを追う

2009/03/07
帝京大学ちば総合医療センター救急集中治療センター

帝京大学ちば総合医療センター 救急集中治療センター長 福家伸夫氏

医療の最前線、「救急医療」が悲鳴をあげている。救急医療現場は、医師数の絶対的不足に喘いでいる。このままの状況が続くと救急医療が崩壊しかねない・・・。
「医療崩壊」を報道するマスコミの論調の中でも、「救急医療」の問題は解決すべき最優先課題として取り上げられている。
ところが、帝京大学ちば総合医療センター救急集中治療センター長の福家伸夫氏は、「救急医療は崩壊していない。崩壊するようなシステムが存在していないのだから壊れようがない」のだと言う。
もともと救急医療の現場には、崩壊する医療システムさえ成り立たっていなかった。救急を担う医師たちは、医療の根幹ともいうべき人的資源の圧倒的な不足に悩まされながら、さまざまな工夫で立ち向かっていると、福家氏は力説する。
知られていない「救急医療」の現場の実際、その将来展望と課題を追った。
※帝京大学ちば総合医療センター(2006年8月に、 帝京大学医学部附属市原病院より改称)

 千葉県の内房総に位置する市原市。その郊外にある帝京大学ちば総合医療センターの救急集中治療センターには、一般市民の救急患者から五井、姉ケ崎といった臨海工業地帯での労働災害、暴走族、薬物中毒、身元不明者などさまざまな患者が受診する。同センターは、年間8000〜12000人の救急患者を受け入れる救急基幹センターである。

医療システムの成立しない「救急医療」現場

 同センター長・福家氏は次のように語る。 「昔、開業医と地域の人が結びついていた時代には、夜中に起こされるのは開業医でした。病院の当直というのは、夜の外来をやるためではなく、基本的に入院患者を診るのが役目。だから当直といってもせいぜい電話番や軽い処置程度だから、次の日も仕事をして差し支えないだろうというのが労働基準法上の建前でした。しかし、これはあくまでも建前であって現実はそうはいきません」。

 システムとしていかに不自然かは、ちょっとした計算でわかるという。わかりやすいように全国の病院の数を1万(実数は九千数百施設)とし、その病院で1人の医師が1日8時間勤務を週5日して、その他に1日だけ当直(24時間勤務)すると仮定してみよう。すると、すでに週労働時間は64時間となり、労働基準法で定めている労働時間を越える。

 当直医は毎日必要だから、1人の医師が週1回当直すれば、一週間で7人。全国1万施設の病院では、7万人の医師が必要な勘定になる。内科系1人、外科系1人で当直したら14万人必要。病棟担当1人、外来担当1人でも同様である。

 現在、わが国の医師の数は、25~27万人。その中で実際に診療または研究等医療現場で働いている現役医師は約22万といわれている。その内、年配の医師は体力的に当直ができない。また研修医には、単独で当直をさせてはいけないことになっており、臨床(診察・治療行為)を行わない基礎医学の研究者も当直はしない。これらの当直できない医師の合計は約10万人。残りが全て当直に当たったとしても必要数である14万人には、到底満たないのである。

 このように、病院が救急外来を通常業務として行うことは、すでに当直医を確保する段階で破綻していると、福家氏は言う。

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リポート 医療の現場から 新着一覧

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