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国立国語研が「イレウス」「QOL」など57語について提案
「病院の言葉」を分かりやすくする説明案が発表

2009/03/27
医師・作家 米山公啓

 しかし、問題は医者が患者さんに説明する言葉だけではない。むしろナースや医者同士の会話に使われる専門用語が、患者さんに聞こえた場合、不安を作り出しているケースが多い。それは患者さんに知られたくない会話であるからだろう。ガンのことを「マリグナント」「Ca:ツェーアー」と言い換えたりする。ガン告知前には、患者に隠そうとするので、専門用語をさらにひねった言葉として使うのだ。

 そんな不思議な言葉を、少しでも聞いてしまうと、患者さんは不安になってしまう。つまり問題は言葉なのではない。もちろん何もしないよりは詳しく解説することで、患者さんも助かるだろうし、多少なりとも理解を深めることができるかもしれない。

 しかし、きちんと説明をしない医者が多いこと、十分説明できるような時間の余裕のないことのほうがずっと問題である。パソコンばかりに目をやって、患者の顔を見ない医者も増えている。

 私のところにやってくる患者さんの中には、「病院へ行くと、お医者さんはパソコンの画面ばかりを見ている」そんなことを言う人が多いのだ。さらに「なぜ主治医に訊かないの?」というような質問を、私に訊いてくる。

 「忙しそうでとても訊けない」「怖い顔をしているので、質問もできない」そんな言葉が返ってくる。つまり言葉の意味云々以前の問題のほうが、診療ではずっと問題が大きいのだ。

 例えば動脈硬化という言葉を説明するとなると、「血管が硬くなる状態」という言い換えでは不十分である。動脈硬化とコレステロールの関係、血圧がどう影響するかなど、患者さんに本当に理解してもらおうと思うなら、言葉の解説ではなく、病気のメカニズムまで説明していく必要がある。

 とはいえ、患者さんに医療や医学を完全に理解してもらうことはほぼ不可能に近い。言葉の理解ではなく、医学的な知識をしっかり理解してようやく病気のことを理解できるようになるからだ。となれば、簡単な言い換えでは、とても十分な説明になるわけがない。それなのに医者によっては、専門用語をわかりやすい言葉で言い換えること自体が、患者さんへの説明だと思ってしまうかもしれない。

 基本的には患者さんは医者の言葉を理解できない。そこから出発して行かねばならない。多くの患者さんは、医者の前では、なかなか質問もできず、「わかりません」という言葉も使えないのだ。医者側は、相手が黙っているから理解したものと、勝手に判断することも多い。

 医者側が、言葉の言い換えそのものが、医療サービスを改善するかのような勘違いをしている限り、患者さんは永遠に病気を理解していくことはできなのではないだろうか。

 何よりも十分な診察の時間を取れる、診療システムにしていかなければ、医者と患者の間のコミュニケーションは、現状から何も変わることはないだろう。

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