独立行政法人国立国語研究所の「病院の言葉」委員会(委員長:国立国語研究所所長の松戸清樹氏)は3月7日、医療従事者がよく使う言葉を患者に分かりやすくするための提案を発表し、記念フォーラムを開催した。
同委員会は、医療者が用いる用語の頻度調査、用語についての医療者の意識調査、非医療者の理解度調査などから、候補となる2000語を抽出。最終的に57 語について、言葉遣いの工夫をまとめた。今回発表されたのは、2008年10月に公表した中間報告に寄せられた約900件の意見を踏まえて、最終提案としてまとめられたもの。中間報告では、医療者の97%、非医療者の94%が「参考になる」と回答している。
委員会によると、医療従事者が使う言葉が患者に伝わらない原因は、(1)患者に言葉が知られていない(2)患者の理解が不確か(3)患者に理解を妨げる心理的負担がある――に類型化される。これらを分かりやすく伝える工夫として、原因に応じて(A)日常語で言い換える(B)明確に説明する(C)重要で新しい概念を普及させる――ことを提案した。
(A)の一例は、「イレウス」。この言葉は患者の認知度が12.5%と低いため、「腸閉塞」や「腸の通過障害」と言い換える、あるいは少し詳しく「腸の一部が詰まって、食べたものやガスが通らなくなっている状態です」と説明することを提案している。
(B)の一例は、「頓服」。患者の認知率は高い(82.6%)が、鎮痛薬または解熱薬を指す言葉という誤解がそれぞれ3割を超えるなど、理解度はかなり低い。そこで、「食後など決まった時間ではなく、発作時や症状のひどいときなどに薬を飲むことです」と、明確に説明することを提案している。
(C)の例としては、インフォームドコンセント、QOL、MRIなどが挙げられている。
(日経メディカルオンライン 2009年3月11日付記事から)
言い換えだけでは問題は解決しない
医者やナースの使う言葉がわかりにくということで、私は10年近く前に「医者語ナース語」という本を出している。きっかけは医者が患者さんに病状説明をしているのを聞いた時だった。ほとんど無意識のように専門用語を使っていることに驚いた。これでは患者さんは、医者の説明がわからないだろうなと思ったのだ。
自分の権威を保ちたいのか、肝心なところになると、専門用語を使ってしまう。自分が有利な医者という立場であるのを、患者にわからせるようにしているとしか思えなかった。
今回の「病院の言葉を分かりやすくする説明」というのは、「何をいまさら」という感が否めない。10年間いったい何をしてきたのだろうか。今頃医者の言葉がわかりにくいと言われても、むしろ驚きである。なぜいままで、その問題を放置してきたのであろうか。そっちが問題なくらいである。