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第6回 ベオグラードのクリスマス~自分自身と自分の立ち位置を知る

2009/12/01
南野陽子(なんの ようこ) ピアニスト

自分自身と自分の立ち位置を理解して伝える


コンサートの翌日から私達はアナの親戚や友達の家に招待されました。印象的だったのがどの家に行っても驚くほど大きな冷凍庫が置いてあったことです。食べ物の供給が不安定だからということでした。アナの家にも業務用サイズの冷凍庫があり、中には食べ物がぎっしり入っていました。そんな状況でもアナの家族は私を大歓迎してくれて、毎日心づくしの手料理を用意してくれただけでなく、ベオグラードの色々な場所に連れて行ってくれました。

そんなある夜のこと、明日は何処に行こうかという話になりました。私は「ベオグラードは初めてだから、どこでもいいのだけど・・・」と答えました。するとアナが「私達はヨウコに喜んでもらいたいと思っているのだから希望をはっきりと言ってくれないと困るわ。ヨウコは自分のことをよく知っているから簡単でしょ?」と言うのです。

意外な言葉に「自分のことをよく知っている? 私が?」と聞くと「うん、ヨウコは自分のことをよく理解していて決断が早いから、一緒に演奏する時だけでなく、話している時も楽しいのよ」と彼女はにっこり微笑みました。

なるほど・・。私はコンサートの時から感じていたアナならではの価値観が少し理解出来た気がしました。多様な民族の人々が共存する国では自分のことや自分の言いたいことをきちんと表現して相手に伝えることが重要になります。そのためにはまず自分自身や自分の立ち位置をしっかりと理解する必要があるのでしょう。ユーゴスラビアという多民族国家に生まれ、12歳から国を離れてウィーンに留学しているアナは、そのことをコミュニケーションや演奏においてとても大切に考えているのだと思いました。

初めての国で市場を訪れるのが好きな私は「明日はベオグラードの市場に行きたい」とアナに伝えました。翌早朝の市場でアドリア海から運ばれてきた沢山の魚介類を見つけて大喜びする私を見て、アナのお母さんはその場で小魚を袋一杯に購入し、晩御飯でフライにしてご馳走してくれました。

コミュニケーションでは相手と自分の立ち位置を理解し、その距離を縮めることが重要です。そのためには相手のこともさることながら『自分自身のことや自分の立ち位置を理解して相手にしっかりと伝える』ことが欠かせないということを、私はアナとの交流を通して強く実感しました。

(注)多民族国家であったユーゴスラビアはその後セルビア、モンテネグロ、スロベニア、クロアチア、マケドニア、ボスニア・ヘルツェゴビナ等に分離・独立しています(コソボを含む)。現在、ベオグラードはセルビアの首都となっています。

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