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第5回 ウィーンの高校で体験した“理想のコミュニケーション”

2009/11/17
南野 陽子(なんの ようこ)  ピアニスト

その後の質疑応答においても、学生達の問いに対して丁寧に受け答えする学長の意見のどれもがきちんと筋が通っていたせいか、気がついてみると場内はしんと静まりかえっていました。と、その時です。この署名運動の中心となって活動していた男子学生がいきなり「ブラボ!」と短く叫ぶとパンパンパンと手を叩き始めました。それはまさしく学長の名演説に対する賞賛の拍手でした。その様子を眺めていた他の学生達もひとり、またひとりと手を叩き始め、結局最後には学生側が学長の意見に拍手をもって賛同するという形でこの署名運動は終わりを告げ、ラテン語の授業は存続することとなったのです。

理想のコミュニケーションの形とは


私はそれまでこのように立場の違う者同士が堂々と意見をぶつけあう機会というものに遭遇したことがなかったので、「なんと開かれたコミュニケーションの形だろう!」と新鮮な驚きを感じました。

そしてこの集会において
「一人一人が自分の意見をはっきりと持ち、周囲に対しても堂々と主張できる」
「そして周囲の人がたとえ異なる意見を持っていても、その考え方を尊重しながら、自らの意見を冷静に述べられる」
「お互いに意見をぶつけ合った後は、相手の意見の方がより合理性がある場合はそれを受け入れられる」
といったコミュニケーションにおけるある一つの理想形が見事に実践されており、たとえ年齢や立場の差があっても、このような合理的な精神が基本原則として尊重されていることに感動すら覚えたのです。

もちろんヨーロッパにおいてもあらゆる場面でこのように合理的な精神に基づくコミュニケーションが成立しているわけではありません。しかしこの合理的な精神に基づくコミュニケーションの形を大切に考えている人たちが数多く存在しているのは確かに思えます。

《自分の社会的立場からだけでなく、一人の人間としてきちんとコミュニケーションを取ることによって多くの人々を納得させることが出来る‥》

私はこのようなコミュニケーションが取れる学長のような人こそが真の教養人なのかもしれないと、この体験を通じて感じました。

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