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各科診療域のスペシャリスト・インタビュー
未来の教科書に載る外科医療を!国内初の「高度医療」認定を受けた北の“鉄人”
第3回 岩手医科大学外科学教室 若林 剛教授

2009/11/24
岩手医科大学外科学教室 若林剛教授

新臨床研修制度によって
医療が得たものと失ったもの


――最後に、このインタビューの主な読者である医学生、研修医向けのご意見、メッセージをいただければと思います。新臨床研修制度で、地域医療の現場はどう変わったのでしょうか? また将来はどうなると思われますか?

若林 新臨床研修制度によって、医療が得たものと失ったものがあります。得たものは、若い無給医が有給になって、社会的な基盤ができたことです。こんなことは、新臨床研修制度ができなければ、あり得なかったでしょう。無給医がいなくなったのは、新臨床研修制度の最大の功績でしょうね。

一方、失ったものは、地域医療です。医局の力が小さくなり、若い医師を地方に派遣できなくなったために、地域医療が完全に崩壊してしまった。ただ、これは壊れて良かった面もある。これまでの医療の形を一度壊して、再編したほうが、この国の医療は良くなると思うんですよ。

岩手県の場合を例にとると、四国と同じ広い面積の土地に、140万人しか人口がいないのに、県立病院が21個もある。この背景には、交通が不便なこともあったでしょう。盛岡から三陸の町、宮古とか久慈に行くには2時間はかかる。だから、おらが村にも病院が欲しいと考えたのも無理はないのかも知れない。

――ただ、若い医師が、田舎の小さな病院に行きたがるかどうか?

若林 われわれの教室から若い医師を派遣する場合でも、ある程度の手術件数があるところでないと、難しくなりますね。手術件数が増えれば、医師も腕を磨けますし、安全性もそれだけ高まりますから、患者の側のメリットも大きいはずなんです。それに冷静に考えてみると、2時間というのは、さほど長い時間ではない。

僕が慶応病院にいた頃は、慶応でしかやっていなかった肝がんの凍結治療を受けるために、全国から患者が来ていました。いま岩手医大にも、首都圏から患者が来るようになっている。これを考えると、良い医療を受けるために2時間くらいかけて病院に行くのは、さほど大きな負担とは言えないのではないでしょうか。

おらが村には、応急処置のしっかりできる診療所プラスαくらいの医療施設を置いておいて、そこでカバーできない医療は、集約化した大きな病院でやるようにしたほうが、医師の勤務環境の面から見ても、医療の安全性の面からみても、望ましいはずです。これだけ医師の数が少なくなった地方で、医師の力を分散させていると、全体がさらに疲弊して、どうしようもなくなる。いま岩手県には、2次医療圏が9つあるんですが、21個ある県立病院を、この9つくらいに集約化しなければ将来、やっていけないと思います。21個の病院にいる医師が9つに集まれば、医師の数はいまの2倍、3倍になる。それくらいの医師が1カ所にいなければダメですよと、僕は公の場でも言っています。

――集約化の必要が叫ばれる一方で、均てん化という、集約化とは相反する課題も出てきています。

若林 「がん対策基本法」でも、均てん化が言われていますね。日本のどこでも、同じ水準のがん治療が受けられなければならないというわけです。岩手医大は、多くの県立病院が関連病院になっていますので、僕は教授として、岩手県の外科医療を均てん化する責務を負っているんですよ。ですから、集約化した結果の9つの病院では、岩手医大と同じクオリティの手術ができるようになって欲しいと考え、テレビ会議システムを活用したテレカンファレンスを試みたりしています。患者データベースの共有のような構想もありますが、肝心の病院の集約化がなかなか進まない。政治的な理由が大きいんですね。

もっとも、集約化がうまく進んで、地方都市でも、日本の標準のがん手術が受けられるようになったとします。それは素晴らしいことなんだけれども、そうなった時に、日本の医療は、韓国の医療に負けるのではないかと、僕は危惧しています。というのも、韓国では、極端な集約化が進んでいて、何か高度な医療を受けたいと思えば、韓国全土からソウルに患者が集まる体制になっています。ソウルには、1500床も2000床もある巨大病院がいくつかあって、そこでは年間に1000人の胃がん手術をしていたりします。手術数が多ければ多いほど、安全性は高まりますから、お金に余裕がある日本人は、せっかく均てん化された地方都市で手術を受けずに、ソウルに行って、安全性のより高い手術を受けるようになるかも知れない。

臨床試験も、韓国のほうが断然、有利です。新しい抗がん剤が開発されて、臨床試験をやろうとしたら、ソウルの病院で、一気にやるのが一番、効率がいい。ですから、世界中の製薬会社が、アジア人のデータは韓国で取るということになるかも知れません。そうなると、抗がん剤の使い方でも、日本は韓国に遅れを取ることになるでしょう。均てん化の一種の罠として、こういうリスクがあることに、警鐘を鳴らしておきたいと思います。

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