医師であれば実際の治療がこれにあたる。実際の治療だけでなく、がんの治療法について複数の選択肢を提示して、「どれを選ぶかはお任せします」的な医師も少なくない中で、
「あなたにはこの方法がいいと思う」と自信を持って言ってくれる医師は頼りがいがある。また、薬の処方について、
「仕事がお忙しいようなら、多めに薬を出しましょうか?」といってくれる医師もよい。通院の手間や診察料の問題だけではない。同じ病気だからとひとくくりにせずに、目の前の患者がどんな生活をしているのか、というところに思いをはせてくれたことをうれしいと思うのである。
「異常なし」の結果を自分のことのように喜んでくれた医師
人間性を患者は敏感に感じ取る
最後に「人間性」。これはどんな職業にも通じることだろうが、人間性に問題があればどんなに技術が優れていても人は集まらないだろう。客の指名が多い美容師は雰囲気がよい。疲れているお客さんには必要以上に話しかけないなどの思いやりも持っている。
一方、ある美容室には業界内でカット技術が優れていることで知られている美容師がいる。が、髪をカットしながら自分の自慢話に終始するということから、私の周囲の評判はあまりよくない。一番ポピュラーなメニューである「パーマ&カット」にかかる時間はおよそ3時間。この貴重な3時間、一緒にいてリラックスできる美容師とそうでない美容師とでは満足度が大きく違ってくる。
医師でいえば受診したことでそれまで抱いていた不安感が解消され、「時間を割いて受診して本当によかった」と思えるような相手がよい。
友人の1人から検診で乳がんの疑いを指摘され、精密検査を受けた経験を聞いた。主治医でマンモトーム生検を担当した女性医師は「異常なし」の結果をわざわざ電話で知らせてきたという。
「本当によかったですね」と自分のことのように喜んでくれたそうだ。友人は機会があるたびにこの経験を話し、「乳がん検診に行くならあの先生がいいよ」とすすめている。こうした口コミで患者が増えていくのだな、と実感する典型的な例だ。
こうした患者のニーズに敏感な医療機関もある。東海大学付属病院では数年前から優れた外科医の確保に力を入れているが、担当者の医師によるとその条件とは「第一に臨床の腕、次が人柄のよさで、最後が研究の業績」ということだった。
医療ライターという仕事をしていると医療の問題点ばかりに目が行き、求めるものも多くなってしまう。でも、患者の視点に戻ると求めるものはけっこうシンプルだ。実際、多くの患者たちは医者の悪口!?をいいながらも頼りにし、心のよりどころにしている。
ホッとできる行きつけの美容室にように、行くと元気になれるかかりつけ医を誰もが探している。