久しぶりに実家に帰り、偶然開けた引出しには病院の診察券が山ほど入っている。母親がここ数年、原因不明のしびれで悩んでいる。「あの病院はいいよ」と噂を聞くたびに受診してみるが、なかなか効果が得られないのだという。
「A先生がいてくれたら、よかったのに」とぼやいている。数年前まで内科の医師として近くの総合病院に来ていたA医師はとても話しやすく、疑問があったら遠慮なくいえる雰囲気があった。治療方針も明確で、説明もわかりやすく、説得力があり、母はかかりつけ医としてその医師をとても頼りにしていたという。
だから、「大学に戻ることになってしまって……」といわれたときとてもショックを受けた。「じゃあ、先生のいる大学病院に通いますから」とまでいったという。しかし最寄りの駅から1時間以上もかかるその病院に行けるはずもない。引き継いでくれた別の医師に問題はなかったが、なんとなく疎遠になってしまったそうだ。
しかし私がネットで調べてみるとA医師が近郊のクリニックに週1で勤務していることがわかった。母親はとびあがって喜んだ。「早速、行ってみる」と意気込み、すっかり元気になってしまった。
私がこの一件から感じたのは、「医者選びは美容師を選ぶのにとてもよく似ている」ということだった。かかりつけ医と同様に、2、3カ月に1回は通うことになる美容院。納得がいく美容室、美容師に出会えるまで女性なら10軒以上の店をまわっている人も少なくないのではないだろうか。私もその1つで、診察券ならぬ美容室のメンバーズカード(ほとんどが1、2回でやめてしまったもの)かなりたまっている。
一方、「この人だ」と思う美容師に出会ったら何年もその店に通い続ける。私の知っている女性は関西に引っ越してもヘアスタイルのためだけに東京の美容室に通っている。現在、美容室は乱立し、生き残りが大変な業界だが、客の満足度が高い店には顧客が集中し、予約がなかなかとれない状況なのだ。