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他国が注視する日本の年金制度改革。国民への情報開示で、理解促進へ
インタビュー 野村資本市場研究所 研究員 野村亜紀子 氏

2010/06/17
聞き手:日経BP社BPnet編集プロデューサー 阪田英也 取材:21世紀医療フォーラム取材班 原田英子 構成:同 狩生聖子

――具体的な業務内容について教えてください。

野村 ニューヨークは金融まわりのありとあらゆる情報が集まるウォールストリートもあり、経済、株式市場情報全体を収集する役割はニューヨークが担っていました。一方、こちらはワシントンまわりの情報収集に特化することになりました。ある意味では、非常に贅沢な体制ですね。アメリカは、議員をサポートするスタッフが充実していますが、そういう議員のブレーンにあたる方にインタビューしたり、日本から定点観測で出張インタビューに来るエコノミストをアテンドしたりして関係者に話を聞きました。

また、ワシントンでの議会の動向や金融・証券まわりの話題などを、いち早く日本語に要約して送るのも重要な仕事でした。当時の日本では「ウォールストリートジャーナル」でさえ、高いお金を払っても3~4日も遅れたものを読むしかありませんでしたから、一生懸命日本に送りました。

一次資料の送付も同様に重要で、多い時には一晩で100枚という大量のFAXを送ったものです。時差がある中、日本時間での1日の終わりに間に合うようにするなど、なかなかやっかいなこともありました。なにしろ、今のようなインターネットもメールもない時代ですからね。例えば、今と比べて規模感は薄いですが、当時はアメリカが財政赤字に悩んでいた時代です。1993年、クリントン政権に入った直後で、財政赤字が何千億ドルもあり、アメリカ人は非常に大きな赤字だと深刻に捉えていました。日本ならば危機感を持たない水準だったのかもしれませんが、感覚が違ったのだと思います。

財政が国債や金融市場に与えるインパクトはきわめて大きいし、その財政制約がアメリカの諸々の経済政策、資本市場政策に直結するので、そういう議論を愚直に伝えるという仕事を担っていました。

――2年間のワシントン駐在で得たものは。

野村 日本では平社員の身分では会えないような人に会えるなど、得難い体験をさせてもらうことができました。日本の組織を外から客観的に見るいいチャンスにはなったと思います。また、海外駐在を経験し、あらためて日本とのコミュニケーションを密にとることの重要性を実感しました。例えばある資料を「なるべく早く送ってくれ」と日本側から要請されたとしましょう。

「なるべく早く」というのは、曖昧な表現です。ほんとうのところはどのくらい急いでいるのか。日本にいれば感覚でわかるのでしょうが、海外にいるほうはこれがピンとこないことがあるとよくいわれます。しかし、「明日でいいだろう」と思って後回しにしてしまうと、手遅れになってしまう事態も起こりかねない。海外にいると日本のビジネスの変化がわかりにくい、という部分もあります。

つまり、海外勤務には、離れたからこそ、日本や自分の組織を客観視できるメリットと、離れてしまうがゆえにちょっと感覚がずれてしまう、というデメリットがあり、この点、注意しなければならないことを実感しました。

――アメリカのエコノミスト、アナリストたちとの話の中で、印象に残ることがあれば教えてください。

野村 非常に印象的だったのはさきほども触れましたが、財政赤字の話です。アメリカでは財政赤字がどんどん膨らんでいく中で、キャップ制(国防費など裁量的経費に上限を定め、これが上限を超過した場合には一律削減を行うこと、とした制度)の仕組みを備えていました。

これは予算を作っていく段階で、一定以上の赤字を出してしまうということになると、一律カットなど、かなり厳しい予算制約を設ける仕組みです。「アメリカ人はどうしてこうも財政赤字を懸念するのだろう?」「彼らから見たら、日本は信じられない赤字容認国家ということになってしまうのだろうか?」といったことをしばしば考えさせられました。

実際、財政赤字の対GDP比といった数値で各国間の比較をしますが、日本の数値が高いのは事実です。しかし、それでも国はまわっている、といういい方もできるわけです。
アメリカ人は、アメリカが大国で市場が大きいゆえに、日本も含め他国の事情にあまり目を向ける機会がなかった。だから財政赤字についてもある意味、非常にシリアスにとらえてしまうというところもあったのかもしれません。

――アメリカの経済に対する関心の厚さは、日本とは構造的に違うのでしょうか?アメリカと日本における違いでほかに感じたことがあれば教えてください。

野村 当時、ワシントンにいたということもあって強く感じることとなったのは政治的なシステムの違いです。例えば議員が法案を出す議員立法というのがあります。アメリカでは大統領に法案提出権がなく、法案のすべてが議員立法です。法案の成立までには、まず、委員会の委員長が中心になって、そこで議論をして法案を固め、必要に応じて別の委員会との調整をして、さらに最後は下院と上院で合わせて法律になる、というプロセスになっています。

つまり、法律になるまでに多くの手間とコストがかかることになります。また、アメリカは2大政党制ですから、政党が変われば、議員の主張も変わり、若干の巻き戻しもある。それはすごいコストです。しかし、そのコストを払う覚悟があって、この人たちはそういう政治体制を組んでいるわけだし、それをよし、としている。広い意味での国民のサポートが当然あるのだろうという気がしました。

時代を経て、今、日本も政権交替がなされ、形だけなのかどうなのかが、これから試されるところだろうと思いますが、その場合、こうしたさまざまなコストの部分も国民は納得しなければならないのだろう、と思いますね。

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