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スペシャルインタビュー シリーズ「ワクチンの現状と将来を考える」 第2回
ワクチンラグと、海外渡航ワクチンの課題
川崎医科大学医学部小児科学主任教授・日本渡航医学会理事 尾内一信 氏

2010/05/27
聞き手:日経BP社BPnet編集プロデューサー 阪田英也 構成:21世紀医療フォーラム取材班 桶谷仁志

未認可が多く、摂取率が低い海外渡航ワクチン


――尾内先生が、日本渡航医学会理事として警鐘を鳴らしている海外渡航ワクチンの未認可の問題でも、政府の危機感の希薄さが背景になっているようですね。

尾内 その通りです。小児用のワクチンの認可さえも20年近く先送りになってきたのですから、一部の国に行く海外渡航者にとって、接種が望ましい海外渡航ワクチンの問題はなおさら後回しにされ、先送りになっていて、未認可のワクチンはなかなか認可されません。そのため、望ましいワクチンを接種しないままに、渡航してしまう人が少なくないのです。

2005~07年の厚労省の研究事業「海外渡航者に対する予防接種のあり方に関する研究」では、JICA(国際協力機構)、巡回医師団、日本人会診療所の協力を得て、海外82カ国への日本人渡航者9000人を対象に、アンケート調査を実施しました。その結果、JICAの派遣者はさすがに接種率が高く、A型肝炎ワクチン、B型肝炎ワクチン、破傷風ワクチン、狂犬病ワクチンを80%以上接種していました。その一方、巡回医師団と日本人会診療所を受診した長期滞在者の場合、A型肝炎ワクチン、B型肝炎ワクチン、破傷風ワクチンの接種率は50~75%と低く、狂犬病ワクチンに至っては25~30%に過ぎませんでした。

以上は、日本で認可されているワクチンですが、日本で未認可の腸チフスワクチン、髄膜炎菌ワクチンの接種率は、JICAの派遣者でさえも26%(腸チフスワクチン)、17%(髄膜炎菌ワクチン)と低く、上記の長期滞在者の場合には接種者は皆無でした。このほか、海外に職員、学生を派遣している大学や企業にもアンケート調査を実施しましたが、ほぼ同様の結果でした。短期滞在者の場合は、上記よりもさらに接種率が低くなっています。

――ワクチンを接種せずに渡航すると、どのような病気にかかるリスクが大きいのですか?

尾内 ワクチンで予防できる病気に罹患した人は、全体の3.4~9%でした。罹患者が多いのはコレラ(ワクチン未認可)、腸チフス(ワクチン未認可)、A型肝炎、B型肝炎で、それぞれ帰国後日本で報告されたのは毎年数十例です。もっとも、このデータには、現地の病院等で治療した人は含まれていないので、実際はもっと多くの人が、こうした病気に罹患していると考えられます。国別で見ると、4疾患ともアジアでの罹患がほとんどです。罹患率が高い国のワーストは、コレラはインド、フィリピン、パキスタン、腸チフスはバングラデッシュ、ネパール、インド、B型肝炎はフィリピン、タイ、中国、A型肝炎はインド、フィリピンの順でした。

――どの国も、これから日本経済が復活していくためには、どんどん交流していかなければならない国ですね。

尾内 それなのに、日本人がインドに長期滞在して、腸チフスやコレラにどんどんかかっています。腸チフス、コレラ、髄膜炎菌のワクチンは日本で未認可なので、接種しようとすると、医師の個人輸入に頼るしかないため、どうしても接種率は下がります。首都圏などは人口も多いので、ワクチンを個人輸入しているトラベルクリニックもそれなりの数がありますが、地方に行くと極端に少なくなる。

その一方、例えば髄膜炎菌のワクチンは、米国、英国では、定期接種になっています。髄膜炎菌の感染者が多いのは、サハラ砂漠周辺です。サウジアラビアのメッカでは、世界中からイスラム教徒の巡礼が集まる。巡礼の盛んな時期には、人口が100倍にも増えて、相部屋で過ごすので、どんどん感染者が増え、その人たちが世界中に散っていく。米国にも英国にも帰っていく人が多いので、定期接種になっているわけです。

日本人は、メッカにはめったに行かないから、要らないというわけにもいかない。例えばお子さんが、高校生になって米国に留学しようというとき、髄膜炎菌のワクチンを打っていないと、寮に入れてもらえません。ワクチンを打って、免疫ができてから来なさいと言われてしまいます。

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