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スペシャルインタビュー シリーズ「ワクチンの現状と将来を考える」 第2回
ワクチンラグと、海外渡航ワクチンの課題
川崎医科大学医学部小児科学主任教授・日本渡航医学会理事 尾内一信 氏

2010/05/27
聞き手:日経BP社BPnet編集プロデューサー 阪田英也 構成:21世紀医療フォーラム取材班 桶谷仁志

川崎医科大学医学部小児科学主任教授・日本渡航医学会理事 尾内一信 氏

シリーズ「ワクチンの現状と将来を考える」第2回は、倉敷市の川崎医科大医学部小児科学主任教授で、日本渡航医学会理事の尾内一信氏。前回は、昨年大きな話題になったインフルエンザウィルスにテーマを絞ったが、今回は、より広く、細菌向けを含めたワクチンの意義、その課題について聞いた。また、未認可のワクチンが多く、海外とのワクチンラグ(海外に対する日本のワクチン認可の遅れ)がとりわけ大きい海外渡航ワクチンについても、詳しくうかがった。(聞き手:日経BP BPnet編集プロデューサー 阪田英也 構成:21世紀医療フォーラム取材班 桶谷仁志)

アジュバントのおかげで細菌用ワクチンが大きく進歩


――「アクトヒブ」「プレブナー」という耳慣れない名前のワクチンが、最近になって日本でも認可され、小児用ワクチンとして実用化されて話題になっています。このワクチンは、季節性インフルエンザ向けのワクチンと、どう違うのでしょうか。

尾内 季節性、新型などの言葉が冠されるインフルエンザのワクチンは、インフルエンザウィルスによる疾患を予防するためのワクチンです。一方、商品名で「アクトヒブ」(販売:第一三共)、「プレブナー」(販売:米ワイス)は、細菌用のワクチンです。ワクチンには、大きく分けて、『ウィルス用のワクチン』と、『細菌用のワクチン』があります。『ウィルス用のワクチン』は、ずっと以前から学校で集団接種されているので、大人も知っていますし、『季節性のワクチン』も毎年、話題になるのでおなじみです。

一方、『細菌用のワクチン』の中で、ジフテリア、破傷風、百日咳のワクチンは以前からありましたが、それ以外は比較的最近になって実用化されたワクチンなので、まだ一般にはなじみがありません。

――比較的最近というと、いつ頃からですか。

尾内 1970年代の終わり頃から、エイズ研究の成果もあって、免疫学が大きく進歩しました。その進歩をベースにして、1990年前後に、新しいワクチンが続々と生まれてきました。その開発のキーワードが、「アジュバント(抗原性補強剤)」です。「アジュバント」とは、皆さんのなじみのある言葉で、俗っぽくたとえると、胡椒のようなものです。

昔、欧州各国が東インド会社を作って東方貿易に乗りだした時代に、貿易の大きな目的の一つは胡椒でした。というのは、胡椒を使うと、その刺激のおかげで、肉料理も卵料理も、スープも、すべての料理がおいしくなった。それと同じで、いいアジュバントは、免疫機構を刺激し、びっくりさせて、活性化することができるのです。ですから、いいアジュバントを加えると、すべてのワクチンがランクアップします。その結果、ワクチンに使う抗原の量が少なくても、同じ効果が期待できるので、ワクチンを素早く、大量に生産できるようになりました。また、それまで免疫が付かなかった対象にも、免疫がつくようになった。

例えば、「アクトヒブ」というワクチンは、3歳頃までに発病することが多い小児の細菌性髄膜炎を予防できるワクチンです。小児の細菌性髄膜炎の原因菌の一つに、インフルエンザ菌b型(Hib=ヒブ)があります。以前は、小児にインフルエンザ菌b型の免疫をつけることはできませんでした。ところが、いいキャリア蛋白(アジュバント=抗原性補強剤)ができたために、「アクトヒブ」(インフルエンザ菌b型ワクチン)が開発され、小児に、インフルエンザ菌b型の免疫を付けることができるようになりました。

「アクトヒブ」は、フランス産のワクチンですが、米国では、1990年に認可され、定期接種されるようになりました。そのため米国では、それまで年間に約3000人いた小児の細菌性髄膜炎がほぼゼロになったのです。日本では、年間に約600人が発病していますが、認可されたのは2007年です。

――効果が明らかなのに、日本では20年近くも認可されなかったのですね。

尾内 そうです。ワクチンラグ(海外に対する日本のワクチン認可の遅れ)が17年間もあったのです。小児の細菌性髄膜炎の原因菌には、肺炎球菌もあります。この肺炎球菌への免疫を付けることができるのが、「プレグナー」というワクチンで、こちらは今年2月24日から、日本でも実用化され、接種できるようになりました。ただ「プレブナー」は、十分な製品供給がありますが、「アクトヒブ」は、予約してから6カ月待ちのような状態です。できれば生後6カ月から接種した方がいいので、そのためには、赤ちゃんがお腹の中にいるうちから予約する必要がありますね。

プロフィール

尾内一信(おうち かずのぶ) 氏

1956年兵庫県生まれ。山口大学医学部卒。国立岡山病院小児医療センター、済生会下関総合病院などを経て、2002年から現職。小児科学、臨床微生物学が専門。日本渡航医学会理事(国際交流担当)も務め、2005~07年には厚労省の研究事業「海外渡航者に対する予防接種のあり方に関する研究」に、主任研究者として参加。海外渡航ワクチン関連の論文に「未認可ワクチンの現状と問題点」「日本におけるトラベルメディスンの新たな展開」などがある。

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