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日本の医療分野の成長戦略には、「頭脳流入を図る魅力的な環境づくり」と、「縦割り文化を変える」ことが必要

2010/05/24
聞き手:日経BP社BPnet編集プロデューサー 阪田英也、構成:21世紀医療フォーラム取材班 原田英子 通訳:長井聡子

医療戦略を動かすグランドデザインの推進と、インセンティブ


――日本には、外資もあれば日本発の医薬品メーカー(内資)もあり、連合しにくいと思います。しかし、医療分野の成長戦略の「グランドデザイン」に向かって、外資、内資を問わず一致団結していく必要がありますね。 

エルツェ 日本の製薬企業やその団体が政府に働きかけていくことも大切だと思いますが、その際にどんどん外資も巻き込んでいくことが必要です。日本の医薬品市場は、世界第2位の規模を抱える市場であり、外資にとっても注目に値する。ですから日本の製薬企業だけの取り組みではなく、外資を巻き込んだ形で、最終的に日本の医薬品市場を、どのようにデザインしていくか、そして、製薬企業のポテンシャルを100パーセント活かせるように、外資、内資が一緒になって活動していくべきだと思います。

――欧米各国の中で、医療分野の成長戦略に関する「グランドデザイン」が描かれ、推進されている国はあるのでしょうか。

エルツェ まず、ドイツは日本と同じような状況といえます。一方、アメリカでは、「グランドデザイン」が、いわば自然発生的に出来上がっていった。政府が資金を出さなくても、ベンチャーキャピタルが投資するなど、金融市場から資金が流れていきました。1950年代には、NIHが設立されています。そして、「新薬の価格は高く設定されるため、イノベーションには高いリターンがある」ということで、製薬企業にインセンティブが生まれた。

ただ、それにはやはりマイナス面もあって、一方でアメリカの医療制度は破綻しかけています。患者の医療に対するアクセスが限られていることもありますし、持続可能性という意味では最悪の状態にあるといえます。また、アメリカの研究者や科学者も、トップだけを見れば、本当に優秀な人たちがいますが、平均レベルはさほど高くないという問題もあります。

――エルツェさんの掲げる理想的な「グランドデザイン」を実現している国はありますか。

エルツェ 『ゲートキーパー』などの診療システムや、「グランドデザイン」では、UK(英国)が一番近いですが、ヘルスケアシステムに関しては、日本が一番患者にやさしい。医療制度だけをとると、日本は大変優れていると思います。ただ、「薬剤費や医療機器に対する保険償還はあるけれども、医師が診療で使う時間に対しての保険償還は十分になされていない」という問題。また、「治療に傾きすぎて予防の部分がない」「保険制度の足並みが揃っていない」「支払い期間によって加算の仕方が違う」などが、問題点として指摘できるでしょう。全体的にみれば、日本の医療制度はいいほうで、あまりいじりすぎないように注意しなければならないと思います。

――国によって、患者の医師や医療に対するアプローチの仕方に違いはありますか?

エルツェ 違いはあると思います。その違いが生まれる背景は、国民性ではなく、結局はインセンティブがどこに出ているかだと思います。例えば、アメリカで民間保険に入っているとしましょう。すると、「最新の手術を受けたい」「最新の技術にアクセスしたい」「一番良い治療をしてもらいたい」と思うわけです。それは、最新のものがあなたにとって一番だと暗に伝えるシステムになっているからです。

イギリスは反対で、ちょっと気分が悪いなら、「数日寝ていれば治る」というように患者は啓発されています。そのために遅きに失することもあるくらい患者はドクターのところに行きません。

フランスは、薬価制度が日本と似ているところがあります。数年前まで政府が厳しく薬剤費をコントロールしてきた結果、薬価が下がっていくので、製薬メーカーは売上や収益を確保するために、なるべく数量を出そうとする。その結果、過剰な処方が行われ、患者にしてみると、「こんなに薬を飲むことはできない」というような状態になります。

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