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日本の医療分野の成長戦略には、「頭脳流入を図る魅力的な環境づくり」と、「縦割り文化を変える」ことが必要

2010/05/24
聞き手:日経BP社BPnet編集プロデューサー 阪田英也、構成:21世紀医療フォーラム取材班 原田英子 通訳:長井聡子

「頭脳流入を図る魅力的な環境づくりと、
縦割り文化を変える必要性」
~エルツェ氏インタビュー~


――エルツェさんは臨床研究、治験、創薬に深い関わりをもたれています。ヨーロッパ、アメリカ、そして近隣のシンガポールなどに比べ、日本には根深いドラッグラグがある。その解決法を提示していただきました。では、まず何から具体的には手をつければいいのでしょうか。

エルツェ やはり、「頭脳の集中」ということがとても大切だと思います。そういった意味で、頭脳を日本に流入させることが大切です。そのためには魅力的な制度を構築して、海外から優秀な研究者を3~5年のスパンで日本に呼んできて、日本の病院などで日本の研究者と一緒に仕事をさせることが必要です。

――頭脳を流入させるために、具体的に見習うべき理想的な制度はありますか? 

エルツェ 頭脳がやってくる魅力的な労働環境を整える必要があります。資金が潤沢にあることも重要ですが、自由を重んじる環境と科学者相互のやり取りを促すような環境、交流が盛んになるような環境をつくってあげることが重要です。

ドイツは日本と似たような課題に直面しているので、ドイツが行っているイノベーションの例を一つ紹介しましょう。フンボルトファンドという、アメリカからドイツに帰ってきた優秀な科学者に出される助成金があります。期限は5年ですが、かなり潤沢で、1年間に100万ユーロだったと思います。その研究者が抱えている研究グループに与えられる資金ですが、その一部は上限があるけれどもプライベートにも使える。

頭脳流入について不思議なのは、ドイツも日本もサイエンスの基盤は強いものがあるにもかかわらず、アメリカのメーカーが日本に研究所や創薬センターを置こうとしないのは一体なぜなのか。例えば、税金の優遇策や税控除を実施すれば、すぐにでも研究所が日本にもできるのではないかと思うのです。

過去15年の流れとして、アメリカは研究所の統廃合を進めてきました。ドイツに研究所を置くこともなくなってしまいました。ところが最近はまた、小規模ではあるが世界中のいろいろな場所に研究所を置くことで、より広くサイエンスにアクセスする方向に進もうとしています。

――ただ、日本は世界でひとり取り残されている?

エルツェ はい、日本もドイツもそうですね。仮に私が世界のどこに研究所を置くかを考えるとしたら、まずは臨床研究ができる体制にあるかどうかに目をつけると思います。バイオ医薬品領域でイノベーションが生まれるとしたら、臨床の早期の段階だと思うからです。

 

サイエンスには国境はありません。もちろん制度を魅力的なものにして諸外国から頭脳流入を図ることも大切ですが、それ以前に日本にいる科学者とか若い研究者にとっても魅力的なものをつくることが大切です。

研究も臨床も、文化を変える必要があると思います。例えば、大学について言えば、政府助成金は包括的助成金であり、教授がイニシアチブを取り、教授の一存でいろいろな研究者に配分する。それに対して若い研究者は意見を言えない。日本の頭脳に対して魅力的な仕組みをつくるには、若い優秀な科学者に対しては、教授を通してではなく直接に助成をする。あるいは、個人だけではなく専門領域を超えて形作られている研究グループに対して、縦割りではなくお金を出すこと。私たちはこれを「組み替えイノベーション」「リコンビナント・イノベーション」と呼んでいます。

――日本で、これらの考え方を広げていくための具体的な方策は。

エルツェ 経済産業省と厚生労働省とセットでプレゼンしたいのですが、政府内では縦割りの壁に阻まれています。これは、日本に限らず、欧米のどこの国へ行っても同じ問題です。製薬メーカーの中もかなり縦割りで、協力が進みません。日本の製薬メーカーは、「運用モデル」とか「文化」という意味では、世界から10~15年遅れていると思います。

ドイツのメルクが突破口を開きたいと考えて、スイスのセローノを買収し、同時に本社もジュネーブに移しました。より国際的な環境で、頭脳が集まるようにと考えたわけです。日本の大手製薬メーカーも、全体的には、グローバルという方向に進んでいると思います。

数年前に聞いたところによれば、日本の政府は、「世界のトップ15社に入るメーカーを3社育てたい」とのことでした。しかし、それは、いいアイディアではない。なぜならば、過去60年間に新規化合物を出した企業を見ると、大手がどんどん減り、規模の小さいベンチャー企業こそが成功を収めています。企業は規模が大きくなるほどに「官僚主義」「縦割り」になる。と同時に、逆説的ではありますが、イノベーションを追求して社内の運用モデルを変え、大学との協力によりバイオテクノロジーを進めようといった動きも、やはり大手から出てきます。

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