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日本の医療分野の成長戦略には、「頭脳流入を図る魅力的な環境づくり」と、「縦割り文化を変える」ことが必要

2010/05/24
聞き手:日経BP社BPnet編集プロデューサー 阪田英也、構成:21世紀医療フォーラム取材班 原田英子 通訳:長井聡子

日本におけるバイオメディカル・イノベーション体制の課題


次に、外国人の目から見た解釈と断りつつ、エルツェ氏は、日本におけるバイオ医薬品のイノベーション体制が抱えている課題は、ドイツとかなり共通している部分があると語る。

「まずは、サイエンスに対する資金が十分にないこと。次に、例外もあるが大学内の文化として、“科学者は商業的なものを重視しない”“部門を越えた協力が少ない”ということが挙げられます。さらに、“バイオテクノロジー産業が栄えていないこと”。その理由の1つには、ベンチャーキャピタルがなく、株式市場からの資金が流れ込まないことがあります。」
「さらには、大学そのものが、バイオテクノロジーのインキュベータ(孵化器)になっていないということもあります。また日本では、知的財産の保護が確立されたのが1990年代であり、かなり遅れをとったことも挙げられます。もう1つの問題は、日本の薬価制度、保険償還の制度では、薬剤の価格が原則として2年に一度見直すこととされていること。それが製薬会社にとってはインセンティブにならない。こうしたリスクには投資しないということになってしまっています」。

では、こうした日本の医薬品産業の置かれた状況下で、個々の製薬企業はどのように行動すべきか。エルツェ氏は、まずは、「グローバル化を進めていくこと」。そして、もっと「リスクの高いイノベ-ションを目指していくこと」。「新しいテクノロジーを導入し、R&Dのビジネスモデルや企業内文化を変えていくこと」が必要と語る。

ただ、製薬業界のサイエンスに対するアクセスが限られているという問題や、大学における協力の文化が育っていないという問題、新しいサイエンスが生まれたとしてもそれを使える技術まで持っていくトランスレーションがうまくいっていないという問題もある。

厚労省は、最近「ドラックラグ」に関して、認可までの期間を一部の未承認薬について短縮化したが、全体としては遅々として進んでいない。また、薬価や保険償還の制度に関して、派生的なイノベーションに対するインセンティブはあるものの、飛躍的なイノベーションに対するインセンティブはあまりない。また、金融市場がバイオベンチャーをサポートしていないということも、間接的に製薬業界の足を引っ張ることになっている。

政府側の問題としては、本当の意味での飛躍的なイノベーションを後押しするような省庁間の政策協調がみられない。日本のバイオメディカルのイノベーションの黄金期を迎えるには、協調した産業政策の枠組みを作っていくべきだとエルツェ氏は主張する。

「文部科学省は、アメリカのNIH、ドイツのDFKにあたる日本版の組織をつくって、大学の研究に対して資金を提供していくことが必要だと思います。経済産業省は、まずバイオメディカルの技術をサポートする委員会を設立し、早期の段階の診断薬や医療機器、医薬品の開発に対して資金を提供することを考えるべきだと思います。

科学技術の体制だけでは十分とはいえません。学者というのは本当にピュアなサイエンスが大好きですが、それを実際に実用に結び付けていくような、例えば診断薬を開発したり、画像診断のテクノロジーを生み出したりといったことにはあまり興味を持っていません。したがって、そこを促すための別組織としてバイオメディカルテクノロジー委員会というようなものが必要になると思います。

そして、バイオ医薬品の創薬、開発を促すために、バイオメディカルのベンチャー・キャピタルファンドも必要です。バイオメディカルの領域は、最終的に製品化するまでに大変長い時間を要するので、30~50年といったスパンで、政府が資金を出してファンドを設立し、創薬開発を促していくべきでしょう。

医療制度の体制については、日本が最も弱い臨床研究を促すためのメディカルリサーチ委員会のようなものが必要です。そこで大学病院や一般病院、ドクターの研究グループによる臨床研究をもっと支援していくべきだと思います」。

最後にエルツェ氏は、「いま最も必要とされるのは、政府が長期のビジョンを策定し、省庁間が協調することによってバイオ医薬品の将来を引っ張っていくことだ」と強調して、スライドによる講演を終えた。 

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