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日本の医療分野の成長戦略には、「頭脳流入を図る魅力的な環境づくり」と、「縦割り文化を変える」ことが必要

2010/05/24
聞き手:日経BP社BPnet編集プロデューサー 阪田英也、構成:21世紀医療フォーラム取材班 原田英子 通訳:長井聡子

「カテニオン」上席取締役
クリスティアン・エルツェ氏

サイエンス、テクノロジー、医学に精通する専門家集団を抱え、医薬、処方箋薬、診断薬、医療機器など、メガ・ファーマが取り組む事業に対して、様々な事業戦略コンサルティングを行う「カテニオン」。その上席取締役であるクリスティアン・エルツェ氏が来日した。エルツェ氏は、日本の製薬メーカーの研究開発予算の大きさに着目、そこに「カテニオン」のビジネスチャンスがあると考え、2年ほど前から積極的に、日本の製薬業界へ接触を図ってきた。
現在、「カテニオン」の拠点オフィスは英国・ロンドンにあるが、近いうちに日本にもオフィスを構える予定。今回の取材では、エルツェ氏に、「ワールドワイドの医薬品産業におけるカテニオンの役割」「英国、フランス、ドイツ、米国それぞれの医療政策の問題点」、そして、「日本の抱える医療問題への解決試案」について、語っていただいた。前半は、エルツェ氏講演の採録、後半はインタビューの構成となっている。 (聞き手:日経BP BPnet編集プロデューサー 阪田英也、構成:21世紀医療フォーラム取材班 原田英子 通訳:長井聡子)

「イノベーションに必要な3要素と、
バイオメディカル・イノベーションを生む3要件」
~エルツェ氏講演から~

カテニオンの提供しているサービスは、大きく2つに分けられる。1つは、「企業の戦略策定」「M&Aや組織再編」などマーケティングやシステム構築の分野。いま1つは、R&D分野で、「創薬から研究開発までの戦略策定」「R&Dの組織モデルの構築」「R&Dのポートフォリオの最適化」などである。

個々のプロジェクト、個々の製品にかなり深く踏み込んで精査し、その上でコンサルティングする点が、クライアントから高い評価を得、この数年間で扱ってきた案件は700件を超える。扱う医薬品の種類も、「低分子化合物」から「ワクチン」、さらには「生物製剤」までをも守備範囲とし、治療領域も多岐にわたっている。

「医薬品のイノベーションが最も大きな仕事ですが、イノベーションに必要な要素は3つあると考えています。まずは、『創造性に富んだ個人』。つまり、優れた科学者やメディカルドクター(MD)、生化学者など。そして、『創造性を発揮し活躍できる場』。それは、官僚的でない組織とより広い意味での環境を意味します。3つ目は、『バイオ医薬品のイノベーションをつくるための体制』です」と、エルツェ氏は語る。

19世紀に活躍したフランスの著作家・ゴビノーは、いつの時代にもクリエイティブな人がいるにもかかわらず、ある時代、ある特定の地理的条件のもとでクリエイティビティが開花しているのはなぜかという考察に取り組んだ。

この考察の中でゴビノーは、ある特定の地理的条件のもとでクリエイティビティが開花した理由を、“いくつかの条件が揃ったからだ”としている。その条件とは、例えば「その地域に富が集中していること」「富裕層が数多くいること」「クリエイティビティを重んじるパトロンがいること」「国民に新しいものを待ち望む機運があること」、そして、「頭脳が集中していること」だという。

一例として、15世紀のコンスタンチノープルの陥落では、ギリシャからイタリアに頭脳流出が起きた。そして、第2次世界大戦後のアメリカで見られたハイテクやバイオ領域でのイノベーションの開花の理由は、ドイツの科学者たちがナチズムに追われたことである。

では、日本のバイオメディカルのイノベーション体制はどうなっているか。
「バイオ医薬品の領域でイノベーションを生み出すために必要な要件として、3つあります。それは、『科学技術の体制』『医療制度』、そして『処方箋医薬品を出す民間の製薬業界』の3つです。まず、『科学技術の体制』については、サイエンスの基盤として日本は、非常に強いものを持っているし、トップクラスのグローバルサイエンスへの参加もある。良い大学も、サイエンスの修了生もたくさん輩出しています。

『医療制度』については、いろいろ問題はありながらも、世界の中でも大変優秀な制度があります。国民皆保険制度であるということ、そして、患者の医療へのアクセスが幅広く、アウトカムもとても良いので、寿命は世界一を誇っています。コスト効果も比較的高く、アメリカとヨーロッパのほとんどの国と比しても優れたものがあると思います。

『医薬品業界』についても、過去数十年間の間に、さまざまな化合物を創薬してきた実績があると思います。ただ、日本発の化合物であるということがあまり目に見えてこない。それはなぜか? 創薬は日本で行っているが、臨床開発はアメリカで行っているケースが多いからです」と、エルツェ氏は指摘する。

プロフィール

カテニオン・パートナー – クリスチァン・エルゼ

エルゼ氏は、カテニオンの創設シニアパートナーで、現在ロンドン在住
ロンドン・スクール・オブ・エコノミックスを卒業後、ソビエト連邦やメキシコで機械道具の販売、北イエメンで開発プロジェクト参加を経て、ドイツの銀行のコントローラー部門で働いた。1984年にMBAを取得後、サンパウロでコンサルティング業務を開始。パリ郊外で、ヨーロッパのヘルスケア産業を対象としたマーサー・マネジメント・コンサルティングを経営。2003年、カテニオン創設者のひとりとなる。
数多くの医薬品や医療用製品のメーカー、および他の産業の顧客に、競争に打ち勝てる戦略や組織を構築する支援をしてきた。
特に創造力と応用認識論に深い興味を抱いている。すなわち、私たちが知りえること、それらを知る方法、知識をイノベーションに変える方法、などである。エルゼ氏は、ヨーロッパのヘルスケアシステムの将来や仕事の将来について広範囲にわたり講演を行ったり著作活動を行ったりしている。余暇には、妻の花屋やガーデンデザインの仕事を熱心にサポートしている。
2001年から2003年まで、ベルリンにあるエピジェノミックス社の監査役会メンバーを務めた。
ロンドン・スクール・オブ・エコノミックスで経済学士、コロンビア大学よりMBAを取得。
ヨーロッパとアメリカ大陸の多くの国で働いた経験があり、英語、フランス語、ドイツ語、イタリア語、ポルトガル語、ロシア語、スペイン語を流暢に話すことができる。
現在、日本語を学習中である。

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