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スペシャルインタビュー シリーズ「ワクチンの現状と将来を考える」 第1回
インフルエンザ出現のメカニズムとワクチンの意義
北海道大学大学院獣医学研究所教授・人獣共通感染症リサーチセンター長 喜田 宏氏

2010/04/12
21世紀医療フォーラム取材班 GoodDoctorNET編集 桶谷仁志

新型インフルエンザ対策の基本は、季節性インフルエンザ対策

――先生のおっしゃるとおりだとすると、その予防法は。

喜田 トリとブタのインフルエンザウィルスをしっかりリサーチして、必要ならば摘発淘汰する。これに尽きます。「早期診断→摘発→淘汰」という原則を徹底するしかないのです。昨年、騒ぎになったいわゆるブタインフルエンザ(H1N1)に関しては、たぶん一昨年の終わりか、昨年の初めに、ブタからヒトにウィルスが感染していると見られる。

そこをつかまえて、いまのウィルスと比べるところから始めないといけません。一方、季節性インフルエンザの対策は、より大事です。そのためには、渡り鳥の日常的なリサーチが必要です。すべてのインフルエンザウィルスは、渡り鳥からやって来るのですから。さらに、水生家禽、陸生家禽、鶏、豚のウィルスをリサーチし、解析します。この解析のために、私たちは苦労してデータベースを作りました。

――それが、先生が人獣共通感染症センターで作られた「インフルエンザウィルス株ライブラリー」ですね。

喜田 問題になっているA型のインフルエンザウィルスは、HとNという二つのタンパク質に組み合わせで、できています。いまはHが16通り、Nが9通り知られていて、計144通りの組み合わせがあります。そのすべての組み合わせのウィルスを、ライブラリー化したのです。144種類のうち65通りは、シベリア、アラスカ、モンゴル、台湾、日本で採集したカモのウンチから分離できました。ほかの79通りは、実験室で、発育卵を使って、ウィルスの遺伝子再集合によって、作りだしました。

――非常に膨大な作業だったのでしょうね。

喜田 技術的には難しくはないけれども、遺伝子をチェックするのにたいへんな労力、根気が必要でした。1個1個のウィルスの遺伝子を調べて、このウィルスは、「この由来」と決めて反応で確かめる。ものすごいエネルギーが必要な作業です。学生と人獣共通感染症リサーチセンターのスタッフが、そこで頑張ってくれた。2008年11月には作業が終わり、世界で初めての「インフルエンザウィルス株ライブラリー」ができました。

これを使って、すべてのウィルス株の病原性、抗原性、遺伝子情報と発育卵における増殖能を解析、データベース化して、ウェブサイトに公開してあります。このデータベースを使って、私たちは、3年後、5年後にどんなインフルエンザウィルスが流行しそうかという予測作業を、始めています。

計算機科学出身の優秀な准教授が来てくれて、彼がいま新しい分野を切り開いている。データベースからデータを取ってきて、並べて、シミュレーションモデルを作る。それをだんだんに改良して、5年後のインフルエンザウィルスのアミノ酸配列を予測し、そのデータを公開する。それが間違ってたら、坊主になる(笑)。プロ野球の優勝予測だって、外れたら坊主になるのがいるんだから、私たちインフルエンザの専門家も、それくらいの覚悟でやらないとね。

――その予測の公開は、いつ頃からになりますか。

喜田 もうすぐです。本当をいうと、新型のウィルスが、いつ出てくるか、どういうサブタイプ(亜型)が出てくるかまで予測したかったんですが、まだそこまではできない。世界中から、リサーチ結果が集まってくれば、それもできるとは思いますけどね。つまり、ワクチンに関して言っても、季節性インフルエンザ対策が、パンデミック(新型インフルエンザ)対策の基本なんです。予測に基づいて、ワクチンを先回りして作ればいいわけですよ。


「後追いワクチンよ、さようなら。先回りワクチンよ、こんにちは」です。実際、私は、昨年の5月の時点で、厚労省に進言したんです。「新型(H1N1)ウィルスは季節性インフルエンザウィルスになるだろうから、今年の季節性インフルエンザワクチンに、この度のブタ由来のH1N1ウィルスを入れよう」とね。

ところが、「タンパク量が増える」という理由で、却下されました。「タンパク量は240マイクログラム以下でなければならない」という基準は、目安として決めてあるだけで、特段の根拠はないにも関わらずです。その結果、1億ドースものワクチンを緊急輸入することを決めた。これまで、ワクチンが一番たくさん使われた年でも3000万ドース以下だったのに、輸入だけで1億ドース。どれだけ余るかわからない。

――最近の報道だと、余剰は1億3000万人分あるそうです。期限切れで廃棄されるワクチンも出てきています。今回の反省もあって、製薬メーカー各社は今後、ワクチン生産に力を入れる方針を表明していますが、これについてはいかがですか。

喜田 もちろんですよ。頑張って欲しい。1994年に、インフルエンザが予防接種対象疾病から外されてから、日本のワクチンには進歩がない。かえって後退している。そこを改めて、真面目に取り組むならば、大変いいことです。全粒子ワクチンにしたって、なぜ純度100%のワクチンはダメなのか、きちんとした試験の結果は出ていない。まず、そのへんから、見直すべきではないでしょうか。

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