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『連載 医療現場に聞く』第1回
患者も医師も大切にされていない日本の医療。どのように改革すべきか
北関東循環器病院院長 南 和友氏インタビュー(1)

2010/04/06
聞き手・構成:21世紀医療フォーラム取材班 狩生聖子 文責:日経BPnet編集プロデューサー 阪田英也

――日本では、盛んな心臓の「オフポンプ手術」もドイツでは少ないそうですね。

南 日本では6割以上がオフポンプを使ったバイパス手術ですが、ドイツでは1割程度です。オフポンプは「脳梗塞の合併症のリスクを減らす」のがメリットとされていますが、どちらの手術成績がよいかという国際的なエビデンスはまだ定まっていません。オンポンプが適応となる患者もおり、医師はどちらもこなせなければいけないし、患者さんに合う方法を選択しなければなりません。技術、信念があってオフポンプをすすめている医師はよいのですが、中には「オフポンプが流行」とばかりに、ホームページなどでさかんに告知している施設もあります。

こうしたケースに限らず、今の日本では医療の効率化ではなく、患者さんを集めて利益を得る、という方向になってしまっている。背景には病院の過剰供給があります。ドイツでは地域に設置する病院の数が決まっており、開業する場合も、その地域の医師会から地区を指定されますのでこのようなことはありません。また、開業医を始め病院には「バジェット制」が導入されており、使うことのできる医療費に制限があります。年間の収入の上限も定まっています。日本に数多くある透析専門の病院などはドイツではありえませんね。

――日本における問題の解決策としてはどのようなことが考えられますか?

南 第一歩としては「かかりつけ医」を専門医として育てていくカリキュラムを早急に作ることだと思います。言いにくいことですが、医師本人が病気になったら、日本では、「かかりつけ医」にかかりたい、と思う医師は本当に少ないです。だからこそ、「かかりつけ医」が普及しないということもあります。

「30年前の知識で患者を診る」「自分の専門領域は得意だけれど、ほかの病気の診断が適切にできない」「紹介先がほとんどない」……。などの声を患者側からよく聞きます。大学病院の総合診療科などでは、「どこの専門科に行ったらいいか、わからない場合」の橋渡し役をしてくれますが、そもそも大学病院に来る患者は最初から希望の科を持っていることが多い。各科へのアクセス制限をせずに、総合診療科を設置しても、辻褄が合うわけがありません。

――「かかりつけ医」育成の具体的カリキュラムについてはどのようにお考えですか?

南 例えば専門医制度を作り、内科、外科をはじめ、さまざまな科で学び、8年たったら試験を受けて合格したらGP(ジェネラルフィジシャン)になれる、といったカリキュラム。医師会は「かかりつけ医」の専門医制度に難色を示しているようですが、これは従来の開業医の評価が下がるのではないか、という懸念が大きいからだ、と思います。しかし、移行期は他の専門医制度と同じように、これまで従事してきた開業医の医師は試験なし、一定の条件で資格を与えるということで解決できるのではないでしょうか?10年後、20年後にはGPが中心になって、かかりつけ医の役割を担っていくようになります。

患者さんに信頼される「かかりつけ医」が増え、そこから各病院に紹介してもらえる流れができれば大病院へのアクセスは自然に減ると思いますし、何より、患者が右往左往する必要はなくなります。結果、勤務医の負担も減ります。開業医にも患者は集まるようになります。

――しかし、医師会が反対する可能性が高いとなると難しいのではないでしょうか。

南 日本の医師会は開業医が中心ですからね。もっと勤務医の意見が表に出てくる仕組みを作る必要はあります。ドイツには開業医とは別に勤務医の医師会があります。ここからさまざまな意見が出てくる。勤務医の方が数が多いこともあり、給料もまず、勤務医のほうから決まっていくし、額は開業医のそれよりやや高めに設定されます。日本では勤務医の収入は開業医の3分の1といわれています。

ですから日本でも勤務医の医師会を作るのが理想です。卒後研修、勤務条件やかかりつけ医制度の問題など、どんどん意見が出てくるでしょう。こうしてさまざまな問題がオープンになると改革せざるを得ない。もっとも大学の医局制度が存在する限り、上にものをいうことは難しい。「勤務医の医師会」は、一種、労働組合のようなものですから作ることは難しいですが、勤務医たちが出身大学を超えて、意見を集約できるような会ができれば変わってくると思います。私もそうした動きにつながるよう、やれることをどんどんやっていきたいと思っています。

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