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『連載 医療現場に聞く』第1回
患者も医師も大切にされていない日本の医療。どのように改革すべきか
北関東循環器病院院長 南 和友氏インタビュー(1)

2010/04/06
聞き手・構成:21世紀医療フォーラム取材班 狩生聖子 文責:日経BPnet編集プロデューサー 阪田英也

――しかし、日本では「どこの病院にもかかることができる」「誰もがいい医者に診てもらえる」といった、“選択の自由(フリーアクセス)”が患者側にとっての魅力にもなっています。

南 選択の自由といいますが、患者は「いい病院」「いい医者」を本当に選べているといえるのでしょうか。私はそうは思いません。日本では各病院の手術数や治療成績において正確な数字は開示されていません。厚生労働省は、02年から同省が指定する難度の高い手術の実績を届け出させていますが、この届け出は病院側の自己申告。新聞社や出版社が出している「ランキング本」も同じです。最近はむしろ、こうした本の悪い面も出てきていると思います。

「手術数を無理に増やそう」としたり、「生存率を上げるために、難しい症例は避ける」といった傾向になったり、ということがなきにしもあらず、です。こうしたことは一般の方にはもちろん、中にいる医師にも把握できていないことが多い。客観的な指標がないので、「うちの大学は素晴らしい医療をしているのだ」と思いこんでしまう若い医師は大勢います。質の悪い医療を提供している病院があったとしても、自然淘汰はされません。その理由は、一般の商店と違って医療の値段が最初から決まっているからです。

ドイツでは国の機関、保険会社、医師会が中心となった第3者機関があり、医師は1人1人の患者の細かいデータをここに提出することが義務化されています。具体的には術前の情報、家族歴、行った手術の内容、術後の感染症の有無、退院時の状況といったもので、これを指定の用紙に打ち込んで提出するのです。第3者機関がこれを集計しますので、病院の成績や医師の腕をほぼ正確にとらえることができます。

こうした情報から「かかりつけ医」は『いい病院』『いい医師』を判断し、手術が必要な患者をそこに紹介します。当然、成績の悪い施設には患者が集まらなくなります。データの集計が最も必要な理由は国の医療費にあります。再手術や術後の合併症が多ければそれが医療費に反映します。保険会社も正確な情報が知りたい。医師会は情報の開示に重点を置いているのです。

――ドイツのシステムは、医療の効率化にもつながっているということですね。

南 医療は財源が限られているわけですから、当然のことです。効率化は患者さんにとっての良い医療にもつながります。例えば虚血性心疾患に対して、最近、心臓バイパス手術にかわって、カテーテルで血管を広げる「PCI(心カテーテル治療)」の件数が急速に増えています。もちろん、一枝、二枝といった限局性の狭窄にはPCIが適応となりますが、日本のPCIの件数の多さは異常です。患者の中には、PCIを何回も行い、それでも血管がつまってしまって、最終的にバイパス手術に回ってくる患者さんがけっこういます。これは、「最初からバイパス手術を行った方がよかった」ケースです。

しかし、日本では「まずはPCIで。つまったらまた追加でできますから」といったアドバイスをされることが多いようです。PCIも血管を広げる治療ですから手術ほどではないにしろ、体への負担は大きい。血管を何本も治療してやって血管がステントだらけになっている患者さんを見て驚くことがよくあります。トータルでみた場合、体への負担も医療費も、かなり大きいといえると思います。

ドイツでは、「患者がその治療を受けることでの入院期間」「社会復帰までの時間」「患者の体への負担」「再発のリスク」「かかる医療費」などをトータルで検討し、最も効率的な方法を判断します。


ドイツの「かかりつけ医」を中心とした医療制度

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