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日独両国の社会保障政策の歴史・現状を検証し、将来を展望する
シンポジウム「日独社会保障政策の回顧と展望―医療保険と年金を中心に」が開催
~日独両国の行政経験者らが「社会保険における連帯と自己責任の再認識」について論議~

2010/01/15
21世紀医療フォーラム取材班編集部 桶谷仁志

日本の社会保障制度は、ドイツをモデルとしてつくられた。その歴史的な経緯を踏まえ、両国の社会保障政策の歴史・現状を検証し、将来を展望するシンポジウム「日独社会保障政策の回顧と展望―医療保険と年金を中心に」が、2009年11月16日、東京・築地の国際研究会館国際会議場(国立がんセンター中央病院内)で開催された。
このシンポジウムを主催した財団法人医療経済研究機構は、21世紀医療フォーラムの代表世話人の1人である幸田正孝氏が率いる法人組織で、主に医療および保険に関わる意欲的な研究プロジェクト、シンポジウムを数多く企画、実施している。
今回のシンポジウムは、同研究機構が従来から取り組む日独の共同研究プロジェクトの成果に基づき、フリードリヒ・エーベルト財団からの協賛を得て、実現したものだ。シンポジウムは、日独両国の行政経験者を中心にした6名からの報告の後、休憩時間中に協賛会員および一般参加者から集められた質疑に応える形で、パネルディスカッションが行われた。
日独ともに、現状の制度を将来にわたって維持するのは、非常に難しいという問題意識を共有することもあって、会場には、多くの医療・保険関係者が集まり、満席に近い盛況となった。




山口県立大学社会福祉学部教授 田中耕太郎氏

ドイツでは年金保険の料率の上限を決め、
医療保険にも国費投入の仕組みを導入した


シンポジウムは、全体の司会をつとめた田中耕太郎氏(山口県立大学社会福祉学部教授)による開催主旨の説明、日独両国からの報告者6人の紹介からスタートした。続いての報告は、まず最初にドイツ側の3人、さらに日本側3人の行政経験者および学識者によって行われた。

報告の口火を切ったのは、ヴェルナー・テクトマイヤー氏(元ドイツ連邦労働社会省事務次官)。「年金」に関する報告を担当したテクトマイヤー氏は冒頭、公的年金保険に関する政策は、ドイツの経済社会にとって非常に重要であることを強調した。

その上で、第2次大戦後のドイツの年金制度と政府の政策の動きを、4つの時代に区分して振り返った。中でも、最も後の時代への影響が大きく、ドイツにおける老齢保障のパラダイムシフトをもたらしたといえるのが、1990年に実現したドイツ統一である。統一直後に、東独の経済は破綻し、西側の財政負担は莫大なものになった。その費用の多くは、社会保険が負担したため、現在にまで続く年金財政の悪化を招いたのだという。

その一方、ドイツでもいまや少子高齢化という人口動態の問題が、年金財政に大きな影を落としている。1990年~2008年の間に、ドイツの出生率は、人口の現状維持に必要な水準の3分の2にしか達しなかった。その間も寿命は延び続けて高齢化は進み、65歳以上が占める人口は全体の15.0%から20.3%にまで上昇している。

こうした経済社会の動きを受けて、歴代政権は、年金の負担と給付水準のバランスを取るために、多くの対策を講じてきた。2001年には、年金保険の料率を2020年までは年収の20%以下に、2030年までは年収の22%以下に抑えるという目標が法律に明記された。

一方の年金給付水準は、その時点の料率によって積み立てられた年金基金の金額に従って、変動する仕組みである。急速な給付額の低下に歯止めをかけるための「水準維持条項」は設けられているものの、その中に定められた行政の「適切な」措置が一体どのようなものになるかは容易には予測できない。また、年金の受給開始年齢も引き上げられることがすでに決まっている。2012年から2027年にかけて、受給開始年齢は現在の65歳から67歳まで、月刻みで徐々に引き上げられる予定だ。

テクトマイヤー氏の出した結論は「それなりに満足できる生活をしようと思えば、いまや公的年金に頼るだけでは無理。個人が何らかの手当をする必要がある」というもの。政府はすでに、民間の老齢保障への助成も始めている。また、少子高齢化という人口動態の変化が今後も続くとすれば、政府としては、中高年者の生涯労働時間を増やし、年金財政を支える就業人口の拡大を図る必要がある。その意味で、受給開始年齢の引き上げは、正しい道への第一歩かも知れない。
同氏は言う。「ドイツ統一は、その代償として、社会保障制度の危機をもたらした。今後もわれわれは、何らかの方法で自助と公的保障のバランスを取っていく必要がある」と。

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