

前日本経済新聞社論説委員 渡辺俊介氏
“イノベーションを重視する国”。
それが日本発の最重要メッセージ
続いて行われたパネルディスカッションでは、前日本経済新聞社論説委員・渡辺俊介氏の議事進行で、京都大学副学長・西村周三氏、全日本病院協会会長・西澤寛俊氏、エーザイ(株)取締役 兼 代表執行役社長 兼 最高経営責任者・内藤晴夫氏、アルフレッサホールディングス(株)代表取締役会長・渡邉新氏、日本薬剤師会副会長・山本信夫氏の5名が、それぞれの視点から、医療再生のために「具体的に何ができるか」について講演した後、医療再生へ向けた医薬品産業の役割についてパネリスト全員による全体討議が行われた。

京都大学副学長 西村周三氏
まず、京都大学副学長の西村氏は、「医療政策を、これまでの抑制策から拡大策に転換していく場合、投下する財源をどのように配分してくかが問題。医療費を分析すると、医薬品産業、医療者の構成比は、過去10年間ほとんど変わっていない。これから医療産業をいかに育成するかという重要性を考えれば、医師不足という問題があり、ここにかなりのウエイトを置くことは必要だが、やはり全体的に医療費の拡大を是認する方向で進まないと難しい」と述べ、その根拠を世界と日本との比較で示した。

続いて、全日本病院協会会長の西澤氏は、「医療崩壊阻止を考える時、医療提供側が何をすべきかは、はっきり言って、人と金の問題の解決に尽きる」と指摘。「少ない医師数、低い医療費の中で、いまだに日本の医療は世界一の水準にある。しかし、“医療の結果が良い”“コストパフォーマンスが良い”ということは、医療従事者の犠牲の上になりたっていることを意味する。ここまで医療問題への対応が遅れたことを、行政、医療界全体が反省すべき。その対策としては、地域など『医療圏』で考えることが重要」と語り、『医療圏』の意義を、地域、機能分化、連携の3つのキーワードで解説した。
また、製薬企業など医療関連企業に対しては、市民公開講座などの講演会や患者会支援、地域コミュニティ活動への参加、地域連携クリティカルパスへの参加などを提案。「これらが、医療関連企業のCSR活動として実施された場合、経営にもプラスになるし、ステークホルダーの満足度向上に資することにもなる」と述べ、「地域医療ネットワーク、在宅医療ネットワークの中で、チームの一員として同じ立場で一緒にやりましょう」と呼びかけた。

エーザイ(株)取締役 兼 代表執行役社長 兼 最高経営責任者 内藤晴夫氏
エーザイ(株) 取締役 兼 代表執行役社長 兼 最高経営責任者の内藤氏は、「医薬品産業の課題は、日本だけでは、もはや正しい答えが得られるような状態ではなく、新興国も含めてグローバルに問題解決を図るべき時代に入った」と述べ、医薬品産業の今日的役割として、「アンメット・メディカルニーズに対する新薬の供給」「ドラッグアクセスの改善」「ヘルスシステムへの貢献」「パンデミック対応」を挙げた。
また、「このような今日的な役割を、わが国において製薬企業が果たすためには、日本が製薬企業の集積地となることが不可欠。しかし日本では、『新薬ができない』『臨床傾向とリンクしない』『投資してもインセンティブがない』という声が聞かれる。内外の製薬企業にとって、“やはり日本は投資するに値する国である”という評価を早急に実現する必要がある。そのためにもまず、社会の中へ医薬品産業に対する認識をより浸透させていくことが必要。すなわち医薬品産業が、“いかに人々に希望、安心、安全を創出するために重要な産業であるか”という理解。一方で、“研究開発には十数年を要するということ”に対する理解。“知的財産権が、新しい発明を発見するうえで欠かせない制度である”という理解。このような国民的理解があるエリアであれば、“投資したい”と思うのは当然である」と述べた。
次に、薬価制度について内藤氏は、「新薬の価格が循環的に下落するということは、“日本が、イノベーションに対して正当な評価を下していない”という印象を強く国内外に植え付けるもの。それを払拭するためにも、『何とかこの現状を打開していただきたい』と、中医協の諸先生方にお願いしている。もし、薬価維持特例制度が導入されれば、“わが国がイノベーションを重視する”ということを、国際的に明示する最重要のメッセージになる」と強調した。
さらに内藤氏は、「パーフェクトなバイオファーマ・クラスターは、まだどこにも出現していない。わが国が大きなアドバンテージをとる可能性が残されている分野ではないか」と希望を示し、インベストメントは報いられることを主張した。最後に、ゲーテの“Knowing is not enough, we must apply: willing is not enough, we must do.” という言葉を引用し、「これが、わが国の現在の医薬品産業の課題に対する一つの答えではないか」と結んだ。