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国際比較によるハイブリッド発想が、大腸がん治療の可能性を広げる

2009/11/25
三重大学医学部 楠正人教授、井上靖浩講師

――それでも、排便機能は残るのですか?

楠 皮一枚を切り分ける手術なので、非常に難しいのですが、三重大の術後の機能温存率は85%を超えています。通常の病院の温存率が50%前後ですから、かなりよい成績です。私が、大腸のJパウチを初めて手がけたのは1985年でした。その後、がんが転移、再発しないように放射線と化学療法を足し、最良の方法を模索しました。

いろいろ紆余曲折がありましたが、1996年に、スウェーデンで開発された放射線の当て方を採用し、基本的な手法がひとまず完成しました。それ以前は、10年間ほどブラキーセラピー(組織内照射)をやっていたのですが、1回の線量を上げるスウェーデン式を採用してからは、ブラキーセラピーは完全に捨てました。

若い教室員は悔しくて泣いていましたが、より優れた方法があれば、以前の方法は思い切って捨てなければなりません。患者のためですからね。この新しい手法が完成してから、これまで200例ほど手術していますが、局所再発は1・5%しかありません。この数字を聞いて、国内の医師は信じられないと言いますが、欧米の最先端の施設では、同じような数字が出ていますから、決して不思議ではありません。

さらに、いま井上先生がやっているのは、放射線の感受性の研究です。同じように放射線を当てても、効く人と効かない人がいます。なぜなのか。それをどう臨床に応用するのか。 こうした問題意識で、基礎研究からやっている外科というのは、世界中を見回しても、おそらくうちの大学だけだと思いますね。こうした研究をやっているからこそ、みんなが驚くような成績が出るし、世界に発信することもできるのです。

井上 直腸がんというのは、手術の術式以外にも、放射線、抗がん剤など非常に多くの要素がからんでくるので、さまざまな進歩の可能性があります。三重大は、国内ではトップレベルの成績を達成していますが、遠隔転移、合併症など未解決の問題はまだまだあります。私は、来週から半年ほど、英国に臨床留学に行きますが、そこでは主に放射線、化学療法を学んできたいと思っています。

――さらにハイブリッドな治療法を目指すわけですね?

楠 基礎研究を重視して、トランスレーショナルリサーチに取り組む。さらに術式、放射線、化学療法の国際比較をしながら、ハイブリッドな治療法を試みる。その繰り返しです。井上先生には、これまでにジュネーブ、バーミンガム、オックスフォード、パリなど主に欧州に臨床留学に行ってもらっています。

彼が今回、師事するのは、モーテンセンという世界最高の大腸外科医です。こうして、欧州各国の臨床でさまざまな経験をしてもらい、その経験を持ち帰ってもらって、三重大でハイブリッド化する。その試みが必ず、次の進歩を生むと信じていますよ。

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